第1章-4
話は前後するが深沢先生に初めて会ったのは本入部した翌日の事である。「毎週木曜日に来てくれる事になってるの」と先輩から聞いていた。5月に入り体験入部の期間が終わると改めて先生からの挨拶があった。先生曰く弓道において一番大切なのは「感性」だと言う。美しい物を美しいと感じる心があるかどうかだと。「もちろん最初のうちはなんの事だか分からないとおもうけど」と再三念押していたが新入部員の数は荒太達を含めて男子9人、女子15人。まあ、例年通りといったところらしい。その全員が巻藁テストに合格する頃には荒太は深沢先生から一目置かれる存在になっていた。先生が言うには荒太は実にいい「感性」をもっているらしい。射を見ればそれが分かるのだそうだ。
なるほど弓道をやると感性も磨かれるのか。荒太はそう解釈した。そうしたら音楽をやっていく上でもプラスになるじゃないか。荒太はさらにそう都合よく解釈した。
かと言って的にバンバン当てまくっていたわけではない。なるほど感性と的中率は関係ないのか。荒太はそう解釈した。逆に敦也はバンバン当てまくっていた。敦也の感性はどのような物なのかと思ったが考えてみれば中学時代から全国に行った事もあるほどの実力者なのだ。初心者の荒太とは根本的に違って当然だ。努力しないでもそれなりの結果を残すより、努力してそれなり以上の結果を出すほうが断然かっこいい。敦也はヒーローの素質十分なのである。
しかし充実した日々は唐突に終わりを向かえる。ある日、比奈子が1人の男子部員を射殺してしまったのである。