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第1章-3

 高校生活が始まったばかりのピカピカの1年生に待ち受けているのが部活の勧誘である。もっとも荒太にとっては軽音部と弓道部にしか興味がなかったのでまず手始めに軽音部の見学に行った。が、若干、期待を裏切られた感はあった。第一にレベルが低い。荒太は中2からギターを始めたわけだが明らかに3年生のそれより自分のほうが上手い。第二に先輩方、みなさんオリジナルでやってる人がいなかった。もちろん練習としてやるならコピーは重要だし趣味としてやるならコピーだけでも十分だろうが荒太はできればオリジナル中心のバンドが組みたかった。実際、荒太には中学時代から書き溜めたレパートリーが20曲ほどあった。まあ、自分から誘えば乗ってくる人もいるだろうと考えて入部するかどうかは一旦保留にした。

翌日は弓道部に体験入部。弓道という競技は最初から的に向かって打たせてもらえるわけではないという事は敦也から聞いていた。まずは巻藁という藁を束ねた物に向かって打つ練習から始める。

巻藁は射場に4つ用意されていたがそこには敦也と比奈子の姿もあった。彼らは昨日も来ていたらしい。

「これが上手くできるようにならないと的前には立たせてもらえないらしいよ。テストに合格しないとだめなんだって」他にも体験入部に来ている人は10人ほどいて自分の番を待ちながら比奈子はそう言った。それも敦也から聞いていた。もっとも経験者である敦也と比奈子の友達だという滝川紗紀はすぐに合格する事になるのだが。

「どうする?荒ちゃん入る?」帰りのバスの中で比奈子が聞いてきた。

「うーん、とりあえず入ってみてつまんなそうだったら辞める。今んとこおもしろそうだとは思わないけど」曖昧に答えたつもりだったが「そうだよねえ。私もそんな感じだなあ」と比奈子も頷いた。

 ちなみに比奈子は一応、美術部も覗いてみたらしい。だが雪白高校はもともと文化部が盛んでなく美術部もいかにも地味な女子4名しかいなかった。それでも中学時代、数々の賞を根こそぎ受賞した比奈子の雷名は彼女らの耳にも届いていたようで熱烈に入部を懇願されたそうだ。もっとも比奈子は「私、絵は1人で描くほうが好きなので」と荒太に語ったのと同じ理由でやんわりと断ったらしい。

 2、3回の体験入部で結局2人とも弓道部に入部した。軽音部のほうは入らない事にしたが1人だけ趣味が合いそうな奴がいたのでそいつとは仲良くなった。名前は大津圭一といって荒太は「パトス」というバンドが好きだったのだがその大津君も大ファンだったらしくすぐに意気投合したわけである。ちなみに大津君のほうは軽音部にも喜び勇んで入部した。「だってバンドやってりゃモテるじゃん」とはっきり言われた時は荒太も苦笑するしかなかった。

一方、先輩達から聞いた話では雪白高校の弓道部はかなりの強豪らしい。知らずに入部した荒太もどうかと思うが実際、全国大会にも何度も出場してる常連校なんだそうだ。そのため普段の練習もかなり緊張感のあるものだった。敦也も最初のうちは少し戸惑っているように見えた。というのも中学時代の敦也の所属していた弓道部は世間一般でいう卓球部的存在でどちらかと言えば地味で馬鹿にされる部だった。実際、真剣に弓道に取り組んでいたのは自分だけだったと敦也は愚痴をこぼしていた事がある。それだけに高校での弓道部生活はやりがいのあるものになりそうだと嬉々と語っていた。

比奈子のほうもなんだかんだと言いながら弓道という競技にハマっていた。1ヶ月程で巻藁テストに合格すると練習が終わった後も残って滝川さんと共に1時間ほど矢を打ちまくっていた。

弓道を少しでもかじった事のある人ならわかると思うがこれがなかなか残酷な競技なのである。まず過程と結果が悲惨なほど比例しない。普通どんな競技でも練習すればするだけある程度は上達するものである。だが弓道にはそれがない。それほど練習しなくても当てまくる人もいる。逆に人一倍、練習してもそれほどの成果が得られない人もいる。比奈子は確実に後者だったが実は意外に性根が負けず嫌いなのである。「努力は必ず報われる」と信じて疑わない奴なのである。

肝心の荒太はというと弓道を楽しんではいなかった。それはそうか。遊びでやってるわけではないのだから楽しくはなくても当然だ。その代わり音楽のほうは楽しくて仕方なかった。じゃあ、音楽は遊びだったのかと言えばそうでもない。というか何事も真剣にやったほうが楽しいものだ。

「路上ライブをやってみないか?」と大津君に誘われたのである。荒太はライブというと中学時代に文化祭で一度やったきりであった。その時は誰もが知ってるバンドの誰もが知ってる曲を2曲やっただけだがなかなか達成感があった。ちなみに荒太はギターボーカルだった。

 荒太は二つ返事で「ぜひやりたい」と答えた。その日から3時半まで授業、4時から6時まで部活、それから夜の街に繰り出してライブという毎日が始まった。ライブはパトスのコピーと荒太のオリジナル曲が中心だった。グループ名は「パルス」にした。もちろんパトスから取ったわけだがグループ名をつけた事自体、自己満だったから特にこだわりはない。

 だがライブは自己満では終わらなかった。予想以上にお客さんが集まってくれたのである。特に荒太のオリジナル曲がなかなか好評だったのが嬉しかった。そのうちもっとちゃんとしたライブハウスで本格的にやりたいと思うようになっていた。

「荒太君、なんか本気でプロ目指してみたくない?」荒太は端からそのつもりだったがその想いはより強くなっていた。


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