第1章-2
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高校受験はそれほど苦しかったという記憶はない。
「荒ちゃんも雪白高校受けるの?」
比奈子は荒太の事を「荒ちゃん」と呼ぶ。幼馴染なのだから別に不思議な事ではないし荒太自身、中性的な顔立ちだったからしっくりくる呼び方だった。
雪白高校は地元では有名な進学校である。2人共通っている塾は違ったが成績は優秀なほうだったので自然な選択だった。ちなみに友友兄も雪白高校の卒業生だった。自分とは3コ上にあたる。工業系の標準以上の偏差値の大学に進んだらしい。
北条敦也と出会ったのはちょうど部活を引退して塾に通い始めた頃だった。たまたま隣の席に座ったというだけだがなんだか最初から気が合った。敦也は中学の頃から弓道部だったらしい。荒太の中学には弓道部が無かったので敦也は物珍しい存在に思えた。
「賀川君も雪白高校受けるんだろう?だったら一緒に弓道やろうぜ」そう言うと敦也は弓道という競技の魅力を熱く語り始めた。最初はなんとなく聞いていた荒太だったがだんだん興味が沸いてきた。そもそもクラブ活動なんて物は勉強以外で努力できるフィールドが欲しい人がやる物でそれがサッカー部だろうが軽音部だろうが弓道部だろうが関係ないのだ。自分の青春は音楽6、勉強2、弓道2くらいになるのではないかと漠然と設計し始めていた。
しかし偶然というのはおかしな物でこれと全く同じ事が比奈子の身にも起きていたのだ。
「比奈ちゃんも雪白高校受けるんでしょ?だったら一緒に弓道やろうよ」そう言ったのは滝川紗紀という荒太達とも敦也とも違う中学に通っていた女子である。運動嫌いな比奈子も弓引くくらいならできるかもと興味を持ったらしい。こちらは弓道6、勉強2、絵2くらいだろうと想定した。
「絵が6じゃないのか?」と荒太は聞いたが「私、絵は1人で自由に描くほうが好きだから」とは当時の比奈子の弁。
かくして4人とも見事、雪白高校に合格し波乱万丈な青春時代が始まる次第である。