第1章-1
第1章
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比奈子とは幼稚園からの付き合いだった。最初は家が近かったという理由からの家族ぐるみの付き合いだったが小学校に入学する頃には純粋に友達として仲良くなっていた。
比奈子はもともと大人しいタイプの女の子で1人で絵を描いたり本を読んだりするのが好きな奴だった。かと言って友達が少なかったわけではなく、むしろ誰からでも好かれていた。ただ大勢で騒がしくするのが苦手だっただけだ。
荒太も小学生の頃はそういうタイプだった。音楽好きだった両親の影響で幼い頃からピアノを習わされていた。「されていた」と言っても嫌々やらされていたわけではない。荒太自身、「音楽」という色も形もない芸術に不思議な魅力を感じていた。
ただ小学生ともなれば自然に男子と女子の間に垣根はできてくる。2人とも幼稚園の頃のように一緒に遊んだりお喋りしたりといったような事は少なくなっていた。
ちなみに関係ないが―いや、関係あるか―比奈子は美少女だった。かくいう荒太もなかなかのルックスだったのだが、いかんせん運動が苦手だったので女子にはモテなかった。勉強はできるのに不公平だと荒太は思っていたが、そのぐらいの年代だと勉強ができるよりスポーツが得意なほうがモテる。
そんな荒太と比奈子だが5年生のクラス替えで初めて同じクラスになった。2人の関係は良好だった。昨日見たテレビがどうだとか最近読んだ本がどうだとか聴いたCDがどうだとかの雑談はたびたびした。まだ異性として特別な感情はなかったと思うがお互いに大切な存在だったとははっきりと言える。
中学に入ると比奈子は美術部に、荒太は科学部に入った。別に科学に興味があったわけではないが特に他にやりたい事があったわけでもなかったので入部した。こういうと科学部に失礼な気もするが実際そういう理由でやってた人はたくさんいた。
その代わり荒太の中で音楽というものへの情熱は異様なほど高まっていた。きっかけは中2で同じクラスになった友達のその友達のお兄さんが文化祭でライブをやるから一緒に見に行かないかと誘われた事だった。
その友達の友達の兄、略して友友兄は高校の軽音部でかなり派手なバンドをやっていた。名前を言えば誰でも知っているであろうバンドのコピーが中心だったがなかなかハイレベルなライブだった。
荒太はこれだ―いや、これしかないっと思った。ロックである。ギターをかき鳴らしながらシャウトする友友兄こそが自分の理想像だと。
即行でエレキギターを購入した2万くらいの安物だったが中学2年にしては大きな買い物だった。
「俺、ギターがんばるよ。ピアノも好きだけどこっちの方が合ってる気がする」両親にはそう言った。特別、反対はされなかった。別に本気でプロのピアニストにさせたかったわけでもないらしい。
比奈子のほうはというとこれはもう天才としか言いようがない。こちらは本気で画家を目指してもらいたいくらいいろんなコンクールで様々な賞を総なめしていた。
2人とも脇目もふらず信じた道を突き進んでいればよかったのかもしれない。そうすればあんな「事件」を起こす事もなかった。