第3章-2
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翌日、約束の14時の5分前に蓮井宅に着いた。出迎えたおばさんの第一声は「まあ、すごい頭ね」親友ともかつての仲間とも実の親とも変わらない。「久しぶり。よく来てくれたわね。とりあえず上がって上がって」
「玲奈ちゃんは?」
「ああ、ごめんなさいね。まだ部活から帰ってないのよ」
「部活って何やってるんですか?」
「テニス」
「ああ、中学でもそうでしたね」
しばらくおばさんと談笑していると「ガチャッ」というドアが開く音と共に「ただいまー」という声が聞こえてきた。
「わっ、荒ちゃん、ひさしぶりー。びっくりしたあ」
「おー、玲奈ちゃん、だいぶ変わったね。雰囲気が」
「いや、こっちのセリフだよ」
玲奈ちゃんは荒太の事を「荒ちゃん」と呼びタメ口で話す。昔からそうである。なるほど確かに目鼻立ちは比奈子に似てきているが髪がショートなぶんボーイッシュな印象がある。
「ごめんね。ちょっと部活が長引いちゃって。着替えてくるからちょっと待ってて」
そう言って2階の自室に向かった玲奈ちゃんは3分ほどで降りてきて「ここじゃ話せないから上がって」と告げた。
荒太はおばさんに目配せして「じゃあ」と一言だけ言って玲奈ちゃんの部屋へ上がった。
「そう言えば比奈子の部屋は―」
「あの頃のままよ。無理に片付ける事もないじゃない?」
「それもそうか」
しばしの沈黙が流れた。お互いにどちらから切り出すか探っているようだ。
「話って―何?」
「大した事じゃないの。うん、実は吉行さんの事なんだけどね」
「吉行?吉行一枝の事?」意外な名前が出たので驚いた。
「そう」玲奈ちゃんは伏し目がちに頷いた。
「この前、電話でね。話したい事があるってすぐそこの公園に呼び出されたの。それで、うーんと、何から話せばいいのかな。荒ちゃん、吉行さんと上園さんが付き合ってたって知ってた?」
荒太はギョッとした。
「付き合ってた?あの2人が?いや、知らないよ。初耳だよ」
「そうなんだ。やっぱりみんな知らないんだ。それでね、上園さんが死んでからあの人ウツビョーになっちゃったんだって」
「ウツビョーってあの『鬱病』?」
「そう、あの鬱病。それでずっと一人で苦しんでたんだって」
荒太は意外な気がした。あの気が強い吉行が鬱病―。
「それでね、その苦しみ―悲しみがお姉ちゃんへの憎しみに変わってちゃったんだって」
荒太は嫌な予感がした。
「それでね、お姉ちゃん、本当は自殺じゃなかったの。吉行さんが殺しちゃったんだって」