第3章-1
第3章
1
自分ちに3年振りに帰ってきて母親の第一声は「まあ何その髪!」だった。父親の第一声も「おお、すごい頭だな!」
時間は9時ちょっと過ぎだったが「疲れてるからもう風呂入って寝るよ」と告げた。
「何だ。久しぶりに家族水入らずで晩酌でもと思ってたのに」
「だからボーカリストは酒飲めないって」
「そうその辺の話も聞かせてくれよ。そろそろメジャーデビューも間近って噂で聞いたぞ。
「誰に聞いたんだよ。とりあえず風呂だけでも入らせてくれよ。北海道寒過ぎ!」
そう吐き捨てて荒太は風呂場に向かった。
服を脱いで湯舟に浸かると今日あった事が頭の中に甦ってきた。同窓会は楽しかったがやはり墓参りの記憶のほうが強い。比奈子の事を考えるとまた涙が出そうなのでやめた。
いや、無理だ。考えまいとすればするほど考えてしまう。
「ふえーん」我ながら情けない声が出た。
それにしても玲奈ちゃんの事が気になる。大事な話・・・なんだろう?
玲奈ちゃんと最後に会ったのは3年前だから中学2年生の頃だ。まだまだあどけない少女の印象しかない。
「ザブーン」荒太は頭から湯舟に潜った。特に意味はないがそうしたい気分だった。「ふえーん」また変な声が出た。
気付いたら30分以上入ってた。さすがに湯中りしそうなので湯舟から出た。
Tシャツにセーターというラフな格好になってリビングに入ると2人して飲んでた。自分達だけでも飲むつもりだったのか。
「おお、やっと出たか。ところでお前、風呂場で変な声出してなかったか?」
外まで聞こえてたかと恥ずかしくなったがそこはごまかした。「いや、別に近所の野良猫かなんかじゃないか?」
「まあ、そんな事よりな。お前が東京行くって言った時にはな父さんも母さんも父さんも母さんも特に反対はしなかったけど心から賛成も出来なかったんだ。東京は怖いっていうイメージがあったからな」
「それは本当にただのイメージだよ。実際、怖くもなんともない」
「そうか。それならよかった」父さんは心底安心した風だった。
「圭一君も元気でやってるか?それからベース君もドラム君も。そうだ。名前くらい教えてくれよ。」
「ベースは外村信二、ドラムは今野正美」大した情報ではない。実際、父さんも「そうか」としか言わなかった。
「ジャンルはロックだろ?」
「基本的にはね。でもいろいろやってるよ。バラードもポップも―」荒太はほんの数時間前にした会話を反復している自分に気付く。
「まあ、それはともかく話変わるけどな」変わるのか。
「明日、玲奈ちゃんに行くんだろ?」そうだ。そっちのほうが重要な話だ。
「玲奈ちゃん、お姉さんに似て美人になったのよー。会ったら言ってあげて!」今まで黙々と飲んでいた母さんが口を挟んだ。
なんとなく想像はつく。だめだ。顔見たらまた泣いてしまいそうだ。