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第Ⅰ話 前編 其の二【祝願祭とサンドイッチ】


 

「決めた!」


 突如として大きな声を上げたのはミーナである。

 

「エル君、今日はイチゴのショートケーキにするよ」

「春といえばやっぱりイチゴでしょ!丸んとしたフォルムも可愛くて、甘酸っぱさが最高だし、なによりフワフワのスポンジ生地とほんのりと甘い濃厚な生クリームをイチゴの酸味が……ジュルッ」啜るよだれに反応を見せたのはティアだ。


「イチゴのショートケーキ……ジュルッ」ティアもよだれを啜り、羨ましそうに見られている。

 

『そんな目で見ないでくれ――』

「わかったよ……ティアにも買ってやるよ」食欲旺盛な二人に観念しティアにも買う約束を交わした。

 

「やったー!」悦び飛び回るティア。

 

「でも、ティアあなたお父さんの屋台を手伝う約束があるんじゃなかったかしら?」

 だがペイトがかけた言葉に飛び回っていたのが止まり動かなくなった。


 ティアの両親は料理屋を営み、幼いながらにティアもその手伝いをしている。

 普段は夜に営業する酒場だから行ったことはない。毎年、祝願祭には家族総出で屋台に出店している。毎年違っておいしいものを出しているから、今年も楽しみだ。


 

「なーエル、今何時だ?」

 

 腰へとぶら下げた懐中時計に手をかけ、時間を確認する。

「九時三十分過ぎだな」


 喜んでいたティアの表情は曇り、緩やかに地に手をつき絶望しているようだ。

 

「まっ……まぁ、今度エル兄に買ってもらえばいいんじゃないのか?」

「ガージ兄ちゃん……ねえ、エル兄ちゃん?」


『ガージ、それは勝手に決めていいもんじゃないと思うぞ……』

 

 潤んだ瞳で見上げてくるティア。

 

「ハァー……わかったよ。祭りが終わったらな」

 年下の女の子に断るなど出来るはずもなく、ティアとの約束は継続となった。


 

「フッフッフ。だったらティアには今日から頑張れるようにコレをあげよう♪」

 

 そう言うとミーナは雲菓子を取り出して、ティアへと渡した。

 限りなく白色に近い薄桃色のモコモコとした形をしていて見た目は素朴。

 何やら奇妙な物に写っているのか、男子達は不思議な顔をしている。

 

 

 その横でアルテミアは「可愛い――!」と声をあげた。


 

「なんだろーコレ?」初めて見る物にティアは持ち上げて下から覗いたり、手のひらで持ち上げてみたりと興味津々だ。

 見るだけで中々口へと運ばないティアに、ミーナは焦ったように声をかけた。

「さっ!コレは食べられる時間がかなり短いから、早く食べて」


「うっ……うん。」恐る恐る口へと運び入れられる雲菓子に、七人の視線が集まる。

 

 サクッ……


「んー♡」

「ミーちゃん何コレ!甘くてサクサクで……シュワァ〜って溶けたよ♡初めての食感だよ♡」さっきの落ち込みはどこかへいったようでよかった。

 

「ふっふっふっ、コレはね雲菓子ってお菓子でね」

 

「材料は卵の透明なところと砂糖だけのシンプルなお菓子なのだよ♪」

 人差し指を立て説明を始めたミーナは続ける。

 

「二つを混ぜて空気を含ませると、ふわっふわになるんだけど。これをメレンゲって言ってね。じ――っくりと低温で焼き上げるとこんな軽い食感が生まれるんだよ♪」

 饒舌に語る傍らで、唾を飲み込む一同の姿があった。

 

 

「あぁ〜幸せ♡」

「じゃあ、ボクもうお店のお手伝いに行かなきゃいけないから、みんなまたねー」

 満足したティアは皆に手を振り、「エル兄ちゃんまた今度!約束ねー」っと言葉を残し去っていった。

 


「さーて、俺もそろそろ帰るわ。親父に手伝えって言われてるからな」

 そう話を切り出したのはガッチョだ。

 ガッチョの父は大工をしていて、彼はその見習いとして父の仕事を手伝っている。

 

 

「今日は家畜小屋の修繕だったな。パーお前の家だし一緒に行こうぜ」

 またもや夢に落ちようとしていた少年は瞼を擦り、ゆるりと立ち上がった。

「そうだね~。牛たちの放牧にも行かないといけないし~、帰ろうかな~」

 パームスの家は酪農家だ。町の北部に広がる草原へと牛たちを放牧し、パームスもその手伝いをしている。


 しかし、彼の手伝いはガッチョとは違い、ある目的の為だ。

 彼の日課は牛たちの放牧をすること。だが真の目的は放した牛たちの傍らで昼寝をすることだ。


 

「みんな~またね~」そう言ってガッチョはパームスも、去って行った。


「ねぇエル兄、俺も行ってい……」

「ガーちゃん、あなたも今日の出荷分を運ばないとダメなんじゃないのかしら?」

 ガージの言葉に割り込み、制したのはペイトだ。


 ガージの実家は農家を営んでいる。多種多様な野菜やフルーツを育て町で販売している。彼の役回りは出荷の準備と荷運びだ。

 

「だから、ガーちゃんは止めろって言ってるだろ!」

「あら可愛くていいじゃない?」

 

 そう話すペイトも時間に追われていたようだ。

 学者をしている父が一ヵ月ぶりにリヴォーラ山脈の探索を終え戻ってきたと、今朝聞いたところである。常に本を傍らに置く彼女にとって、父の探索はまるで冒険譚の様に映るのだ。早く聞きたい様子で、逸る気持ちを抑えガージとともに急ぎ足で帰路についた。


「じゃーそろそろ行くか?」

「アルテミアはどうするんだ?どうせなら一緒に行くか?」

 

 そう問われたアルテミアは即座に反応する。

 

「いいわね!……でも、今日は遠慮しておくわ~」

「お邪魔虫にはなりたくないもの」

 

「なんのことだよ?」

 

「私もお店のお手伝いがあるから帰るわね、それじゃ」

 

 アルテミアの両親は美容師をしている、そして、その手伝いをするのが彼女の日課なのである。そう言いウインクをすると、くるりと優雅に振り返り歩き出したのだった。

 

 アルテミアの言葉の意味を考えるが、よくわからない。

 

 

 その時――ミーナの顔がやけに赤いことに気づいた。

 

「大丈夫か?顔赤いけど熱でもあるんじゃ――」

 おでこに伸ばした手をギュッとつかまれると、ミーナは慌てて答えた。

 

「さっ、さー行こう!ケーキが私たちを待ってる♪」


 

 伸ばした手をくるりと回って後ろへと回ったミーナに力一杯背を押され、二人で目的のケーキ屋へと向かうのだった。


読んでいただきありがとうございます!


今回はみんな集合回でした。

それぞれの家の事情や日常も少しずつ出していけたらと思っています。


そして次はケーキ……の前に、きっと寄り道が始まります。

ミーナがいるので仕方ありませんね(笑)


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

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