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第Ⅰ話 前編 其の一【祝願祭とサンドイッチ】

第一話です。

祝願祭のにぎやかな雰囲気と、ミーナたちの日常を楽しんでいただけたら嬉しいです。

 二人でみんなの待つ教会前へ向かっていた。

 るんるんな笑顔を満面に浮かべ、両脇に並ぶ屋台を覗き込みながら右へ左へと陽気なステップを刻むミーナ。その一方で、賑わう街を横目に頭を下げ口惜しさと下手打った口約束にトボトボと歩く俺である。

 

『あぁ、あんな賭けするんじゃなかった……』

『まさか、ミーナがあんな追いかけ方するなんて思わないしな。もう奢るとかいうのはやめよう』俺は心の中で誓うのだった。

 

「ねぇねぇ、エルくん!見てみてコレ!」

「何かな?すごく甘い香りがしてるよ!」


 甘い香りに釣られて、人混みをするりと抜けたミーナはエルに声をかけた。

 顔をあげた俺は辺りを見回しミーナを探す。人混みの隙間からミーナの小さな手が見え、手招きされる元へと抜けた。

 屋台に近づくと不思議な甘い香りが漂い、異国の香りをエルは感じた。しかし、そんな甘い香りの醸し出す屋台の前にはミーナ以外誰も立ち止まってはいない。

 

「なんだろうねコレ?」

「うーん、なんだろうな?」


 二人は向き合い、不思議な顔を浮かべた。準備している最中の屋台には黒茶色の細長い棒状のものが積まれていた。いそいそと荷解きをしながら何かを煮詰めている店主は二人に気付いていない。不思議な黒茶色のコレは見るからに怪しげであった。

「知っている香りみたいなんだけど、なにかわからなくて?」

「俺もこの香り嗅いだ覚えがあるんだけど、思い出せない……」

 互いに嗅いだことのある香りに違和感はあるものの思い出せない。


「やばい!もうこんな時間だ!」時計へと目をやると時間は九時十五分を過ぎようとしていた。

 

「もうミーナが屋台みてるからだぞ!」

「違うもーん!エルくんがのそのそ歩いてるからだもーん!」

「いいから急ぐぞ!」


 俺が走ろうとしたとき、袖口をミーナに捕まれ「ダメ!待って!!」静止を求められた。

 

「ねえ、エルくんお願いがあるのっ!」


「……なんだよ」嫌な予感がする。

 

「あのねあのね」

「そこの雲菓子だけ買ってきてもいい?」

 

 上目遣いで見上げるミーナに『やっぱりな!』エルは額に手を当て天を仰いだ。

 

「すぐだからその隣のコロンとしたイチゴキャンディもいいかな?さっきから不思議な目線を感じていて……イチゴがわたしに買って欲しそうに見てくるの」瞳を潤わせ、懇願するミーナ。

 

 約束の時間が過ぎているというのに、呑気なものだと頭を抱える。

『こうなるとミーナは中々動かない』

『――第一イチゴの目線ってなんだよ』

 

 少しだけ考え「どっちか一つの店だけだぞ!じゃないと置いていくからな!」と渋々ながら条件をつけた。

 

「えぇ――!エルのいじわるー」

「でも時間も近いし、すぐにイチゴキャンディ買ってくるね♪」

 急足でイチゴキャンディのある屋台へと向かうミーナを見送り、少し待つことにした。


「はぁ~」一人になるとため息がでた。辺りを見回し、立ち止まれそうな場所へと人混みを抜ける。時折道ゆく人とぶつかり、お互いに会釈を返した。

『それにしてもすごい人だな……』


 祭りが始まって間もないというのに、街は人で溢れている。ポルトにこんなにも大勢集まるのは、一年でもこの期間だけだ。

 赤や黄、緑などのカラフルな装いのホロを被せた屋台が通りを向かい合うように立ち並んでいる。

 網の上でジュウジュウと音を立てて焼ける、肉の香ばしい匂い。砂糖菓子の焦げたキャラメルの甘い香り。スパイスを効かせた異国の香りをまとう物など様々である。多種多様な屋台から溢れ出た匂いにつられ、行き交う人々は足を止め、至福を肥やす。

 

 

 中々戻らないミーナに、屋台の方へと目を向けてた。

 しばらくすると、人混みの中をすり抜け向かってくるミーナの姿が見えた。


 意気揚々と戻ってきたミーナは、口を開く。

「ごめんねエルくん、お待たせ♪」

「いや〜すごい人だね。こんなに人が集まるのもお祭りならではだね♪」

 人混みをくぐり抜け嬉しそうにするその手には、イチゴキャンディを握りしめていた。

 

「違うぞミーナ。【祝願祭】は大事な神事だ、祭りはおまけみたいなものだからな?」

「もう!ちゃんとわかってますー。でも、神様もお祭り好きでしょ!きっと♪」

 

 『何を根拠に言ってるんだ』

 

「さっ!待ち合わせ場所まで、あと少しだから急がなきゃね♪」

 そういうと、俺を抜き歩き出した。


「そうだな、もう行かない…と……?」

 

「ちょっとまて」

「……なんでニつあるんだよ?」


 後ろを追う形で歩き出し、前を歩くミーナに違和感を感じて呼び止めた。ミーナの握られた片手にはイチゴキャンディ。

 そしてもう一方の手には、なぜか雲菓子なる菓子も持っている。

 

「一つって約束じゃなかったか?」

 一つと条件をつけたはずなのにと確認するようにミーナへと問いかけた。

 

「えっ?」

「だって……同じお店だったから」

「一つのお店だけって言ったのはエルくんだよ♪」


『こいつ、絶対知ってて……』

 呆れるも時は戻らない。諦めて肩を落とし「はぁ、いいからいくぞ」と、力無く言葉を出し二人は待ち合わせの場所へと早足で向かった。

 


 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 

 教会は町の中央にあり、目指すのはその前に大噴水だ。

 大噴水を中心に街を南北へと抜ける大通り。教会を挟むように東の港に向かって伸びる二本の通りが街の主要路で商業の中心地となっている。抜けてきた大通りは人でごった返していたが、中央まで来ると屋台も少なく人混みは小さくなっている。



「おいおい、どれだけ待たせる気なんだよ?」

 二人を見つけ真っ先に話しかけたのは、俺と同じく最年長のガッチョである。俺よりも体格ががっしりとしていて、髪は側頭部を剃り込み後ろで短く結んでいる。

 

「おまたせー♪」「ゴメン待たせた……」

 満面の笑みを浮かべるミーナを見て、状況を察したガッチョは続けた。

「ブハッ!あれだけ煽って負けたのかよエル?」ケタケタと笑うガッチョに苛立ちを隠せず、即座に反応した。

「俺より早く退場出来たおかげで、随分のんびり出来たみたいでよかったなー」

「なんだよ!結局捕まってるんだから一緒だろ?」

「フンッ!あと一分――――いや三十秒あれば勝ってたんだよ!まったくガッチョが鈍足過ぎて秒で捕まるからだろー」

「なんだと!!」

「なんだよ!!」


 皮肉を皮肉で返す醜い応酬は続き、一人の少女がその言い合いに割ってきた。

 

「はいはい、仲がいいですね~……」

「でさ~、結局ミーちゃんが勝ったの?」

 

 険悪な二人を後目にミーナは満足げに答えたのだった。

「そうだよ!いやー我ながらナイスな戦いだったよー」ウンウンと腕を組みうなずくミーナ。


『あれは戦士の戦いじゃないよ。狩人の……いや、獲物を見つけた獣の狩りだよ』ミーナにお菓子の約束は厳禁だなと、俺は誓いを新たにした。


「じゃーエルにケーキ買ってもらえるんだよね?よかったじゃん」

 そう話す少女はガッチョと同じ最年長の少女アルテミアである。長い金色の髪を後ろで結び、微かに化粧を施している。

 

「ねえねえ、ミーちゃん何買ってもらうの?もう決めたの?いいなぁ。ボクも食べたいなぁ」

 問いかけたのは俺の三つ年下、最年少の少女ティアだ。肩にかかるぐらいに切り揃えられたか橙がかった茶色の髪に一人称が【ボク】の少女。ミーナと同じく食に熱く、いつも二人食べ物の話で盛り上がっている。

 

「んー……まだ迷ってるんだよね♪だって色んな種類が食べたいじゃん?」

「一つって約束だろミーナ!」

 あわよくばを狙っているミーナに否定の言葉をかけた。


「でもエル兄が負けるなんて信じられないよ……しかもあのミーナ姉ちゃんに?」

 そう話すのは二つ年下の少年。黒と緑の間のような色をした短髪の少年ガージである。 兄のように慕ってくれている弟分には俺の敗北が信じられなかったようだ。


 その問いには、大噴水に腰掛け本を読んでいた少女が答えた。

「あらガーちゃんは、あのミーちゃんを見なかったのかしら?」

「いや見たけどさ」青ざめた顔で返したガージは、何かを払拭するようにブンブンと首を振った。

 「あとガーちゃんて言うなって言ってるだろペイト」

 ガージに苦言を呈したのは、ガージと同い年の少女ペイトである。濃い茶色のセミロングの髪、赤茶色の縁をした丸いメガネをかけた少女。片手にはいつも年不相応な難しい本を持った少女だ。



「パー君も寝てないで何か言ってやってよ!」

 眠りにつき静かに寝息を立てている少年にガージは話しかけた。

「……Zzz」

 大噴水の枠に寝そべり、片腕を半分ほど水に浸けた少年は深く眠りについたまま反応を見せない。


「おーい、パーそろそろ起きろよ!」ガッチョが揺さぶるとわずかながらに反応を見せ、むくりと上半身を起こし眠そうに口を開いた。

 

「ふわぁ~~……おはよ~」

「あれ~?もう終わったんだね~」

「エル君〜残念だったね~」

 

 水に漬かっていた手を払うと、瞼の重い目を擦りながら話すのだった。


 眠っていたはずのパーと呼ばれた少年は本名をパームスといいミーナと同い年だ。

 暇があれば眠りにつく悪癖持ちだがパームスはやたらと感が働く。

 

「だから、どうしてわかるんだよ?」つっこみを入れるのはいつもガッチョの役目だ。

「いや〜夢で見たんだよエル君が負けるの……Zzz」

「今起きてたよな?」ガッチョが不思議な顔でパームスの顔を覗き込んだ。

 

「Zzz……え〜起きてるよ〜」

 呆れ顔の7人を他所に、パームスは大きなあくびを一つと固まった体を伸ばしたのだった。


「……よし、決めた!」


 突如として大きな声を上げたのはミーナである。

  

ここまで読んでいただきありがとうございます。


このあと、ミーナの“お楽しみ”が始まります。

よろしければ続きも読んでいただけると嬉しいです。

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