表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

浄化5【縁と風】

作者: 稲荷寿司

初めての短編集、ひとまずの完結です。

静かな神社で出会った真白と紡ぎの、小さな物語。

ささやかな縁と、そよぐ風を感じてもらえたら嬉しいです。


---


朝露に濡れた参道を、真白は箒で払いながら進んでいた。

箒の音が小さく響き、空気は清らかで柔らかい。


「真白さーん! おはようございまーす!」

通学途中の子どもたちが手を振る。


真白は微笑みを浮かべて応える。

「おはよう。転ばないようにね。」


子どもたちは元気に駆けていき、風が笑い声を運んでいった。



---


鳥居や参道の掃除を終えると、真白は社務所でお供えの整備や清めの水の管理、

境内の小さな修繕を手際よくこなしていく。


本殿に近づくと、柔らかな光に包まれた神具やお札の清めを行い、

穢れや埃を丁寧に取り除く。


小さな風に舞う落ち葉も、真白の手にかかればすぐに整えられた。


昼を過ぎても、参拝者のための案内や境内の見守りを欠かさず、

子どもたちが遊ぶ境内では時折微笑みながら声をかける。


「気をつけて遊ぶんだよ。」


午後に差し掛かると、御神木の下で光を巡らせて清めの祈りを行い、

境内全体に柔らかな浄化の光を風に乗せて送り続ける。


その働きは、社務所の時計が15時を告げるまで続いた。



---


日が沈む少し前、真白は本殿の前で膝をつき、両手を合わせる。


「本日の浄化、すべて滞りなく済みました。

 境内も穢れなく、風も穏やかです。」


しばしの沈黙のあと、柔らかな光が本殿の奥を照らす。


女神の穏やかな声が静かに響く。


『よく働いてくれました、真白。

 そなたの光に救われた者たちは、皆そなたの優しさを感じていることだろう。

 その努力と心遣い、私は深く誇りに思っております。』


真白は静かに頭を下げる。


「ありがとうございます。

 ですが、世の中の不安定さや人々の心に溜まる穢れは増えつつあります。」


女神は穏やかな光に包まれながら、柔らかく息を漏らすように言った。


『私も同じく感じている。真白よ、この世の動きは穢れを増すことが多く、注意を怠ることはできない。

 そこで、そなたに託したい子がおります。』


柔らかな光が本殿の奥で揺らめき、風がそっと社務所の方へ吹き抜ける。


「その子は、数百年ぶりに生まれた、そなた以来の穢れ知らずの眷属です。

 清き道へ導き、迷わぬよう光で支えるのです。

 成長すれば、そなたの助けにもなるでしょう。大切に見守り、育てなさい。」


真白は静かに頭を下げる。


「承知しました。御心のままに、導きます。」


光がゆらりと揺れ、神の意思がそっと風に乗って広がった。

胸の奥に、新しい責任と、穏やかで温かな期待が静かに芽生える。



---


夕暮れ。茜色に染まる空の下、社務所の前に小さな影が立っていた。

まだ幼さの残る白狐、目に光を宿している。


「今日からこちらに配属されました。眷属の紡ぎです!」


その声に真白は振り向き、穏やかな笑みを浮かべる。

「紡ぎ……いい名だね。これからこの神社を、一緒に守っていこう。」


「はいっ! 精一杯、頑張ります!」


紡ぎは元気いっぱいに尾を振り、笑顔を見せる。

その姿を見た真白は、自然と顔がほころぶ。


(……なんて明るい子なんだろう。

 まるで、この神社に新しい風が吹き込んだみたいだ……)


(心がじんわりと温かくなる。

 こんな気持ち、久しぶりだな……)


心の奥で静かにリラックスする気持ちが湧く。


「真白さま、僕、まだまだ分からないことだらけです……」

「大丈夫、紡ぎ。まずは一つずつ、私のそばで学んでいこう」

「はい、よろしくお願いします!」


御神木の葉がさらりと鳴り、鳥居を抜けて一陣の風が走り抜けた。

静かに、しかし確かに、新しい物語の気配が漂い始めていた。



---


少しの沈黙のあと、真白は優しく紡ぎに問いかける。


「ところで、紡ぎは人の姿にはなれるのかな?」


紡ぎは目を輝かせて首をかしげる。

「人の姿…ですか?」


真白は微笑み、穏やかに説明する。

「現世ではね、狐の姿で言葉を話したら人間は驚いてしまうからね。

 だから、まずはこの姿のままで学ぶんだよ」


紡ぎは一瞬ぽかんとしたあと、慌てて尻尾をバタバタと動かした。

「えっ!? ぼ、僕……人の姿になってるつもりでしたっ!

 し、失礼しましたぁ!」


その真剣な様子に、真白は思わず吹き出してしまう。

「ふふっ、そうか。じゃあ、その勘違いは今日だけにしよう。」


紡ぎは恥ずかしそうに耳をぺたんと伏せ、

「うぅ……修行が必要ですね……」と呟いた。


真白は優しくその頭を撫で、柔らかく笑う。

「大丈夫だよ。ゆっくり覚えていけばいい」


(……この子と一緒なら、これからの毎日も、きっと温かく守っていけるな……)


夕暮れの光が社務所を包み、御神木の葉がそよぐ。

小さな笑い声が神聖な境内に柔らかく響き渡る――


新しい日々と物語の始まりを告げる、静かで確かな温もりの中で。



---

はじめまして!稲荷寿司です(*´∀`*)

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

今回の真白と紡ぎの出会いをもって、短編集として一区切りできたと思います。


この作品を軸に、次回作から二人の物語はさらに広がっていきます。

私自身、この作品で長編に挑戦したいと思っています。

紡ぎの成長や真白の新たな役目など、描いていく予定です。


これからの物語も、どうぞ楽しみにしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ