浄化5【縁と風】
初めての短編集、ひとまずの完結です。
静かな神社で出会った真白と紡ぎの、小さな物語。
ささやかな縁と、そよぐ風を感じてもらえたら嬉しいです。
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朝露に濡れた参道を、真白は箒で払いながら進んでいた。
箒の音が小さく響き、空気は清らかで柔らかい。
「真白さーん! おはようございまーす!」
通学途中の子どもたちが手を振る。
真白は微笑みを浮かべて応える。
「おはよう。転ばないようにね。」
子どもたちは元気に駆けていき、風が笑い声を運んでいった。
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鳥居や参道の掃除を終えると、真白は社務所でお供えの整備や清めの水の管理、
境内の小さな修繕を手際よくこなしていく。
本殿に近づくと、柔らかな光に包まれた神具やお札の清めを行い、
穢れや埃を丁寧に取り除く。
小さな風に舞う落ち葉も、真白の手にかかればすぐに整えられた。
昼を過ぎても、参拝者のための案内や境内の見守りを欠かさず、
子どもたちが遊ぶ境内では時折微笑みながら声をかける。
「気をつけて遊ぶんだよ。」
午後に差し掛かると、御神木の下で光を巡らせて清めの祈りを行い、
境内全体に柔らかな浄化の光を風に乗せて送り続ける。
その働きは、社務所の時計が15時を告げるまで続いた。
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日が沈む少し前、真白は本殿の前で膝をつき、両手を合わせる。
「本日の浄化、すべて滞りなく済みました。
境内も穢れなく、風も穏やかです。」
しばしの沈黙のあと、柔らかな光が本殿の奥を照らす。
女神の穏やかな声が静かに響く。
『よく働いてくれました、真白。
そなたの光に救われた者たちは、皆そなたの優しさを感じていることだろう。
その努力と心遣い、私は深く誇りに思っております。』
真白は静かに頭を下げる。
「ありがとうございます。
ですが、世の中の不安定さや人々の心に溜まる穢れは増えつつあります。」
女神は穏やかな光に包まれながら、柔らかく息を漏らすように言った。
『私も同じく感じている。真白よ、この世の動きは穢れを増すことが多く、注意を怠ることはできない。
そこで、そなたに託したい子がおります。』
柔らかな光が本殿の奥で揺らめき、風がそっと社務所の方へ吹き抜ける。
「その子は、数百年ぶりに生まれた、そなた以来の穢れ知らずの眷属です。
清き道へ導き、迷わぬよう光で支えるのです。
成長すれば、そなたの助けにもなるでしょう。大切に見守り、育てなさい。」
真白は静かに頭を下げる。
「承知しました。御心のままに、導きます。」
光がゆらりと揺れ、神の意思がそっと風に乗って広がった。
胸の奥に、新しい責任と、穏やかで温かな期待が静かに芽生える。
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夕暮れ。茜色に染まる空の下、社務所の前に小さな影が立っていた。
まだ幼さの残る白狐、目に光を宿している。
「今日からこちらに配属されました。眷属の紡ぎです!」
その声に真白は振り向き、穏やかな笑みを浮かべる。
「紡ぎ……いい名だね。これからこの神社を、一緒に守っていこう。」
「はいっ! 精一杯、頑張ります!」
紡ぎは元気いっぱいに尾を振り、笑顔を見せる。
その姿を見た真白は、自然と顔がほころぶ。
(……なんて明るい子なんだろう。
まるで、この神社に新しい風が吹き込んだみたいだ……)
(心がじんわりと温かくなる。
こんな気持ち、久しぶりだな……)
心の奥で静かにリラックスする気持ちが湧く。
「真白さま、僕、まだまだ分からないことだらけです……」
「大丈夫、紡ぎ。まずは一つずつ、私のそばで学んでいこう」
「はい、よろしくお願いします!」
御神木の葉がさらりと鳴り、鳥居を抜けて一陣の風が走り抜けた。
静かに、しかし確かに、新しい物語の気配が漂い始めていた。
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少しの沈黙のあと、真白は優しく紡ぎに問いかける。
「ところで、紡ぎは人の姿にはなれるのかな?」
紡ぎは目を輝かせて首をかしげる。
「人の姿…ですか?」
真白は微笑み、穏やかに説明する。
「現世ではね、狐の姿で言葉を話したら人間は驚いてしまうからね。
だから、まずはこの姿のままで学ぶんだよ」
紡ぎは一瞬ぽかんとしたあと、慌てて尻尾をバタバタと動かした。
「えっ!? ぼ、僕……人の姿になってるつもりでしたっ!
し、失礼しましたぁ!」
その真剣な様子に、真白は思わず吹き出してしまう。
「ふふっ、そうか。じゃあ、その勘違いは今日だけにしよう。」
紡ぎは恥ずかしそうに耳をぺたんと伏せ、
「うぅ……修行が必要ですね……」と呟いた。
真白は優しくその頭を撫で、柔らかく笑う。
「大丈夫だよ。ゆっくり覚えていけばいい」
(……この子と一緒なら、これからの毎日も、きっと温かく守っていけるな……)
夕暮れの光が社務所を包み、御神木の葉がそよぐ。
小さな笑い声が神聖な境内に柔らかく響き渡る――
新しい日々と物語の始まりを告げる、静かで確かな温もりの中で。
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はじめまして!稲荷寿司です(*´∀`*)
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今回の真白と紡ぎの出会いをもって、短編集として一区切りできたと思います。
この作品を軸に、次回作から二人の物語はさらに広がっていきます。
私自身、この作品で長編に挑戦したいと思っています。
紡ぎの成長や真白の新たな役目など、描いていく予定です。
これからの物語も、どうぞ楽しみにしていただけると嬉しいです。




