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最終話 数年前の話




 魔王……か。正直ピンとこないな。


 処刑場の近くまで逃れて来てから、わたしは聖城を振り返った。もう荘厳さの欠片もない。聖城の本丸を守る尖塔外壁だけが無事なのが、かえって皮肉がきいている。権力の象徴に見えた大鐘さえ、もはや見当たらない。

 わたしは視線を両手に落とした。


「……殺しちゃったな……」


 なんかもう、キャロンダイトを追うのもどうでもよくなってきた。連盟を説得するのもどうでもいい。わたしを恐れて殺そうとしてくる連盟も、もうただの敵でしかない。

 この世界の人間たちに認めてもらおうという気もすっかり失せた。そんなのもう諦めた。歴代のルナステラも、こんな気分になって大暴れしていたのだろう。


 さっきまで処刑台だった瓦礫に腰を下ろして考えていると、遠くの方からひとつの影が近づいてきた。ガイガンキ~ンに魔力を込めて望遠鏡のようによく見なくてもわかる。

 だって普通の大人よりも一回り以上は大きいんだもん。


「ヴィルー!」


 わたしは頭の上で大きく両手を振る。

 ヴィルは散歩でもしているかのように、悠々とわたしのいる処刑場にやってきた。


「大丈夫だった?」

「うむ。よもやあのようなやり方で七賢の長を下すとは、さすがに面食らった」

「正々堂々とはほど遠いけどね」

「俺の流儀ではないが、おまえが連盟にされてきたことを考えれば、あれくらいは別にいいのではないか。それにおまえがルナステラだと考えれば同時に納得もできる。やつはいつだって自由に他者を出し抜き嘲笑った。力でたたき伏せることもあれば、奇策を講じることもあった」


 やっぱルナステラのこと、詳しすぎるよね~。

 でももう、それもわたし自身の一部だから。存分にわたしに魅了されるがいいさ。


「たぶん、さっきので完全に混ざっちゃったみたい。呼びたければわたしのことをルナステラって呼んでもいいのよ」


 ヴィルが微笑みを浮かべて、両手の指をゴキゴキと鳴らす。


「ほう、それはもうそろそろ挑んでもいいということか?」

「それはだめ! 死んじゃうからっ! まだちょっと! ちょっとしか混ざってないから!」


 混ざった。そう。カラダはもちろんココロまでだ。彼女のことを完全に理解してしまった。

 だからもう、胸の裡の声は聞こえない。たぶん未来永劫ね。それがなんとなくわかる。だってもうあれは、自分自身の声なんだから。

 わたしはため息をついて一緒にうつむく。


「それよりどうしよ……。わたし、人を殺しちゃった……」

「殺す者には殺されるだけの覚悟が必要だ。七賢ならば本人たちも納得していたはずだろう。ナラクの最期の言葉は恨み言だったか?」


 あれはむしろわたしに対する賞賛のように聞こえた。皮肉の効いた笑みを浮かべてたし。


「理屈ではわかるけど……」


 正当防衛だ。わかってる。

 でも、なんかやっぱりヤだ。いまのわたしは魔女にも人間にもなれない中途半端な生き物。魔王なんてとんでもない。

 ヴィルが口角を上げた。


「まあ、そのようなこともあろうかと俺が助けておいたぞ。ナラクもロノもな。ナラクは助かる怪我ではなかったが、七賢には回復術士がいる。どうせしぶとく生きているだろうよ。おまえが魔女である限り、またどこかで遭遇するさ」

「え~……? それもヤだぁ……」


 きっちりとどめを刺しておくべきだったかも。

 ヴィルの眉が中央に寄った。


「わがままだな。ますますルナステラのようだ」

「うぁ~ん、まだ殴らないでぇ……」

「はっはっは! 強くなるまでは待ってやる!」


 なぜか両腕の筋肉を盛り上げて、ニカッと笑うヴィル。


「う~。……ふふ、あははははっ」


 差し出された大きな手につかまって、わたしは立ち上がる。


「さて、これからどうするんだ?」

「やっぱ魔女狩り制度の撤廃が目的かなー。となると、結局は連盟に殴り込みだね。加盟国を回って王様から場所を聞き出す必要があるね。ヴィルはどうすんの?」

「俺は拳で誤解を解くのみだ。付き合うに決まっている」


 キャロンダイトの口から連盟のアジトの場所を割らせたいところだけれど、さすがにもう逃げちゃってるよね。というか、連盟側から教えられていない可能性もありそう。小物だもん、あの人。

 ちょうどそのとき、朝日が昇り始めた。長い夜だったなあ。


「じゃ行こっか」

「うむ」


 わたしは太陽に背を向けて歩き出す。この先は薄闇の方がお似合いだ。


「連盟への説得はもう諦めたのか?」


 ヴィルがすぐに追いついて、隣についた。


「拳骨は口ほどに物を言うっていうでしょ」

「おまえのいた世界はひどい世界だったのだな」

「冗談じゃん……」


 くだらない話で笑い合いながら、わたしたちは旅を続けた。


 これはルナ・アストラルベインが人間という種に失望して魔王となる途を選び、そしてかつての友であったヴィル・ヴァストゥールが勇者と呼ばれる存在になる、ほんの数年前の話だ。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。


最後までお読みいただきありがとうございました。

またしばらくお休みして、数ヶ月後には新しい作品をアップできればと思っております。

その際にもよろしければお付き合いいただけますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
完結してから、気付いてしまいました(;_;) 楽しい物語をありがとう御座います! ヴィルのは筋肉です、刃◯でもイメージしてトレーニングする事や、カマキリと戦っていたので間違いないはずw 次回作はリア…
更新お疲れ様です&完結おめでとう御座いますヽ(´▽`)/ 今回も連日投稿ありがとうございました。 間を空けずに一気読みした感があって最後まで楽しく読ませていただきました。 ルナとヴィルの後日談に関し…
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