すごいよ筋肉は
服は破れ、肉体の一部は抉り取られたかのようになっていて、そこから血がだらだらと流れ続けている。
ナラクが立ち上がり、眉間にしわを寄せた。
「ヴィル・ヴァストゥールか。こりゃあ驚いた。おまえさん、よく生きてたなあ! 残りの七賢全員をぶつけたんだが、あいつらぁどうなった?」
ヴィルが無言でナラクの背後を指さした。
そうして低い声でうなるように吐き捨てる。
「大体そうなった」
ヴィルがナラクにぶつけたもの。それは七賢のロノだった物体だった。こっちはもうボロ雑巾のようになっている。手足なんて曲がらない方に曲げられちゃってたりして。かわいそう。
まあ、わたしの方がよっぽどひどい状態にされているけれど。バラバラだもん。気合いで繋げるけどさ。
ロノはかろうじて生きてはいるみたい。胸がゆっくり上下している。
「おまえさんひとりで、六人全員やっちまったってか?」
ヴィルが左の腰で右手を左手を繋ぎ、ムキっと両腕の筋肉を盛り上がらせながら言った。
「安心しろ。俺は紳士ゆえ、女性は気絶させただけだ。だが男は半殺しにしておいた」
そうして付け加える。
低く、感情を押し殺したような声で。
「おまえと違ってな」
「痛いとこ突くねえ。だがこっちにも事情ってもんがあるんだよなあ。――にしても、あいつら。俺がとどめを刺すまでの時間稼ぎさえできねえのかよ」
下半身がようやく繋がった。
両腕もだ。
立つことはできそう。でも、もう血を流しすぎてふらふらだ。さっき思いつきでカラダの脂肪を血液に変質させてみたけれど、それでも足りてないみたい。あたりまえか。
頭がクラクラして気持ち悪い。視界が多重になって定まらない。
ナラクが剣の切っ先を持ち上げて、呆れたように言い捨てた。
「ルナステラならさておき、たかが一介の魔法使い、それもたったひとりに壊滅とはなァ。七賢の名が泣くってもんだ。いや、連盟が魔法使いヴィル・ヴァストゥールの脅威度を見くびっていたと考えるべきか」
「訂正してもらおう。俺のパワーは魔法ではない。これが、鍛え上げられた筋肉の力! すなわちパワーだ!」
また同じこと言ってる。どうでもいいし。
でもね、いまならわかる。たぶんヴィルの力も魔法なんだろうなってわたしも思う。
けれど、魔法が願いを信じて叶える力なら、そのことは彼には教えない方がよさそう。ヴィル自身が筋肉のパワーだと無邪気に信じ込んでいる間は、魔法がそれを本当に叶えてくれるのだから。
逆にヴィルがナラクの言葉を信じさせられ、自身の力の源が魔法であると知ってしまったとき、彼はちょっと力が強いだけの凡人に成り下がってしまう。
だからわたしは繋がったばかりの両手をパチパチと叩く。
「よっ、すごいよ、筋肉! いーなー! わたしも欲しいなー!」
「だろう?」
もう、人の気も知らずに嬉しそうな顔してぇ。
……本当はもう足下もおぼつかないくらいふらふらになっているくせに。
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