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魔女×筋肉  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』


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星引きの魔女




 そう、バケモノ。例えばあのワイバーン並みか、あるいはそれ以上の。

 薄ら寒い。剣から目を離すなと本能(ルナステラ)が囁く。

 でもまあ、わたしはここに戦いにきたわけではないから。あくまでもお願いにきただけ。そのために誰も殺さずにきて()()()のだから。


 その……ために……?

 そうだっけ……?


 額を押さえて頭を振る。

 何か変だ。ルナステラの影響かもしれない。


 人殺し、だめ。


 深呼吸。

 一拍を置いて両手を挙げる。降参ポーズ。そうして交渉を持ちかけるために口を開いたとき、キャロンダイトが先に言葉を発した。


「ふ、ふははははっ! 私を殺しに戻ってきたか、醜悪な魔女め! だが、私とてそう易々と殺られはせんぞ!」


 そうして隣に立つ剣士……か何かわからない人を指さして叫ぶ。


「この者に見覚えがあろう!」

「……? あ、はじめまして。えっと、わたし、ルナと申します」


 いまさらながらかな~と思いながらも挨拶をすると、その人は一瞬眉根を寄せたあと、視線を背けてぶっと噴き出した。肩を震わせて笑っている。


「く、くく……! ふ、はははは!」

「ルナステラに似てるって言われるんですけど、別人です……よ?」


 何かおかしなことを言っただろうか。よくわかんないけど愛想笑いしとこ。

 ニタァ……。

 なんか邪悪な感じになっちゃった!


「貴様はまだそのような世迷い言を――ッ」


 キャロンダイトが何かを言いかけたとき、その男性はそれを手で制した。それだけでキャロンダイトは口をつぐむ。不満そうな顔をしているけれど。

 なんとなく、ふたりの力関係が垣間見えた気がする。

 でもこのラーズヴェリア神権国で最も権力を持つ人間は、おそらく聖王であるアルマイド・キャロンダイトであることは間違いない。

 だとしたら、この人は。


「こりゃあご丁寧にどうも。俺は討魔連盟のナラク。……先日、魔女ルナステラを捉えた者だ」


 連盟……! それもルナステラを捉えた魔術師……!?


「七賢ですよね?」

「そうだよ。まあ、ちょいと特殊なんだが」


 ナラクは少し顎をあげて、睨めつけるようにわたしを見ている。彼の視線が這った箇所に、鳥肌が立っていく。

 何かをされている。それがわかるのに迂闊に動けない。

 やがてナラクは自身の顎に手をやると、無精髭を撫でながらつぶやいた。


「ん~。なるほど、なるほど。そういうことか」


 そうして剣を抜くでもなく、キャロンダイトに向き直って適当に言い捨てる。それも、追い払うように手をひらひらさせながら。


「聖王さんよ。ちっと席を外してくんねーか」

「何を言う。私はこの国の王。魔女の死を見届ける義務がある。いかに連盟といえど、一国の王に退席を命じることなどと、思い上がりも甚だしいぞ、貴様」


 ふー……とナラクがため息をついた。

 瞬間、骨まで冷えた。もはや鳥肌などというものではなく、悲鳴を上げかけた。カラダが硬直して動かなくなった。

 氷の魔法――ではない。ああ、うん。わかる。カラダの記憶だ。

 これ、とんでもない濃度の殺気なんだ。


「キャロンダイト聖王サマよ。これは命令じゃあない。お願いってやつだ。庶民のお願いを聞いてやるのも王の務めだろ。頼むから俺を煩わせるなよ。……あんたにも覚えがあるだろ。それまで大切だったものが、ある日突然、いくらでも替えが利くものだったって気づくことが」

「ぐ……う……」

「失せろ凡人。邪魔だ」


 目線を合わせているキャロンダイトの恐怖は、わたしが感じるものの比ではなかっただろうと、容易に察することができる。

 彼は飛び上がるように立つと、躓いて転びそうになりながら謁見の間から出ていった。あいかわらず虫けらみたいな男だ。

 正直追いかけたいけれど……怖くて目が離せない。気づくと足が震えていた。


「ふー……」


 ナラクは何の躊躇いもなく玉座に腰を下ろして足を組んだ。


「やっぱ玉座ってのは座り心地がいいね。ああ、権力的な話じゃあないよ。そういうのにゃ興味がない。あくまでも椅子の話だ。なんてったって腰が楽だし、肘おきも悪くない。ごちゃごちゃ趣味悪く装飾されちまってることを除けばな。……手触りだけが悪い」

「あ、あの……、わたし――」


 手を上げて言葉を止められた。


「ルナステラではなくルナなんだろ。理解した。信じよう」

「え?」


 信じるって言った? もしかして話がわかる人なの?

 彼は肘おきに置いた腕に顎を乗せて、ぶつぶつと何かをつぶやいている。


「だとするなら、やはりルナステラは相当弱体化していたか。星引きの魔女に俺の剣ごときが通用したわけだ」

「えっと……? あの、わたしがルナステラじゃないって信じてくれるの?」


 ナラクが顔を上げた。


「ああ。そう言っただろ?」


 わあ、こんなにあっさり。これでもう自由の身かしら。


「だが――ふぅ……言わんとすることはわかるが、おまえを見逃すことはできん」

「それはあなたが魔女を狩る七賢で、わたしが魔女だから?」

「ん~」


 腕組みをして考え込み、絞り出すようにこう言った。


「まー理由の一割くらいはな」


 一割……?


「要するにだ。んなこたぁ、どうでもいいんだ」


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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― 新着の感想 ―
連続更新ありがとうございますヽ(´▽`)/ あ〜。 勘違いかも知れませんが、これってルナステラとルナの精神が融合する話ではなく、ルナの精神がルナステラのソレに変質する過程の話ですかね。 
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