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魔女×筋肉  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』


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わたしは魔女だ




 誰かを殴りたいなんて思ったことはなかった。ましてやそれが気持ちいいなんて、考えたことさえなかった。

 なのに、胸が高鳴り笑みがこぼれる。

 この感情が月菜のものなのかルナステラのものなのか、もうわからない。もしかしたらわたしの魂は、だんだんとルナステラに変質していくのかもしれない。

 魂が肉体に引きずられる。

 ああ、わたしが魔女になっていく。

 だって、もう……。


 ゴッと音がして右の拳に衝撃が走った。全身鎧の騎士が吹っ飛んで、壁に叩きつけられる。むろん手加減はしている。殺さないようにかろうじて自分を律しながら。

 楽しくて、楽しくて、高揚しすぎないように。

 それでも騎士はブリキ人形のように鎧をへこませ、ぐったりと手足を伸ばす。その手の中から剣がごろりと地面に転がった。


「ク、クソ、魔女め!」


 側方から薙ぎ払われた剣をかいくぐりながら踏み込んでいき、肩から胸鎧にぶつかける。金属にぶつかったはずなのに痛くも痒くもない。

 なんとなく、ヴィルの気持ちがわかった気がする。自分のカラダを信じられる。何でもできる。あの頃――ベッドで寝ていた頃の自分とはもう違う。


「げぁ……」


 騎士のヘルムから霧状の血が散った。

 もう一段、肩を押し込むと――。


「あははは!」


 その騎士は十数歩ほどの距離を勢いよく吹っ飛んでいった。味方を数名巻き込んで、せっかく整えた陣形が崩れる。

 もう倒した数を数えるのも馬鹿馬鹿しい。いちいち覚えていない。

 少し前に駆けつけてきた騎士団は、気絶して泡を噴いたレニアの体たらくに驚愕していた。だからその心の隙があるうちに、わたしは彼らの集団の中へと身を躍り込ませた。

 彼らは慌てて陣形を戻すべく、前列と後列を入れ替えている。ぶつかり合って尻餅をつく人もいる。

 ああ、蟻の行列以下だ、などと思ってしまうと、またおかしくて笑えた。


「あ、悪魔め……でたらめすぎるだろう!」

「違うよ。魔女だよ」


 薄く嗤って見せると、ヘルムの奥からおびえが伝わってきた。

 そんな彼らを眺めているうちに、全身が唐突に炎に包まれた。


「わっ!?」


 魔術師隊だ。騎士隊に交じって混成部隊になっている。

 でもそれは、わたしには通用しない。処刑の日に学ばなかったのかな。


「……懲りないね」


 どれだけ大きな炎も、どれだけ強い雷撃も、すべて体表――ううん、服の表層を滑るだけ。わたしが気を払うべきは質量攻撃である氷やレニアの扱う土、そして騎士たちの振るう鋭い刃を持った武器だ。

 それ以外なら当たるに任せて問題ない。魔術師隊なんて、騎士隊以上にやりやすいくらいだ。

 炎や雷撃の中を平気で突き進み、阻む大盾の騎士たちを綿のように撥ね除けながら飛び上がり、わたしは降下と同時に魔術師隊の足下を拳で穿った。


「うううう、やあ!」


 大地が割れて陥没して周囲がめくれ上がり、騎士も魔術師も一斉にバランスを崩す。

 肩口にいくつか氷塊が命中したけれど、この程度の大きさなら当たるに任せて問題ない。それに大地を穿つと同時にそれらの攻撃も止まった。

 放つのに詠唱や儀式を必要とする魔術と、生まれつき備え持つ魔法の違いだ。魔術は詠唱儀式を邪魔してあげればすぐに止まる。


「ふぅん……」


 弱いんだ、魔術って。

 おっかしいの! あんなに一生懸命ひねり出しているのに! 全部無駄! ほら、頑張れっ、頑張れっ!


「ぷ……っ」


 わたしは嗤う。顔に手をあて悪辣な表情を隠し、月を仰いでけたたましく。

 スカートを踊らせながら回転して剣を避け、魔術は避けずに騎士のヘルムをつかみ、そのままぶん投げる。結果を見届ける暇もなく突き出された槍を半身を引いて躱し、手刀で胸鎧を撲つ。

 負ける気がしない。


「大丈夫……」


 ここがこの程度なら、ヴィルはきっと生きてる。待っててね。すぐ助けに行くから。

 すぐに聖城から離脱しなかったのは、レニアの撃破直後に騎士たちに囲まれたからだ。いまヴィルのもとへと走れば、殺気立った彼らを引き連れていくことになる。

 ヴィルが深い傷を負っていた場合、それは致命傷となってしまう。


「異端の魔女め!」

「退け、悪魔!」


 足を狙って振られた剣を蹴り上げて、わたしは自ら踏み込む。

 ヴィルを斬ったロノの存在が気がかりだけど、名の知れた魔女や魔法使いの処理には、おそらくその場での私刑でなく、公的な処刑の執行が望まれるはずだ。理由は政治的喧伝(プロパガンダ)や、あるいは民への安寧、他の魔女らへの見せしめだ。

 だから彼がすぐにとどめを刺されることはない。きっと。たぶん。


 わたしにできることは、ここでひとりでも多くの敵を引きつけておくこと。派手に暴れて、ヴィルから意識をそらすこと。

 まだわかってる。自分が何のために戦っているか。でも、この胸の高鳴りや高揚も本物だ。

 この魔女のカラダに呑まれるのは、月菜なのか、それともルナステラなのか。意識はゆっくりと重なり合っていく。


 口角が上がる。

 わたしは魔女だ。自覚した。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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― 新着の感想 ―
連続更新ありがとうございますヽ(´▽`)/ う〜ん。 コレは確実に二人の精神の融合が進んでますね。 下手をすればルナステラの精神がルナの精神を飲み込んでしまいかねない勢いで。 ……まぁ、ルナステラは出…
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