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魔女×筋肉  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』


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おまえの心配はしていない




 もしかしてこの筋肉人間、スーパー極悪人のルナステラの影に隠れて目立たなかっただけで、実は極悪人だったという可能性も出てきた。

 少し斜め後方を歩きながら、逃げようかな~、どうしようかな~、などと冷や汗を流しながら考えていると、ヴィルが不意にムキりと振り返った。


「もうすぐ着くぞ。……どうした?」


 思わずびっくりして肩を跳ね上げてしまった。


「あ、あの、ええっと……」


 もごもご言いよどんでいると、唐突にルナステラのお腹がゴゴゴゴゴと鳴った。

 ちょっと!? 大きすぎでしょ、音! やめてよね!?


 ……胸の裡の声は沈黙している。

 ヴィルが珍しく呆れたような苦笑を浮かべた。


「腹が減ったのか。目的より先に飯の催促とは恐れ入る」

「うう、口よりも先にお腹が鳴りましたぁ~……」

「はっはっは! なぁに飯なら、やつにたかってやればいい。ほら、行くぞ」


 気の置けない仲なんだ。だったら大丈夫かな。

 でも、やっぱり山賊行為みたいなだめなことはだめって言ってあげなくちゃ。話せばわかってくれるかな。いや、わからせよう。

 そんなことを考えながら歩いていると、街の様相があきらかに変わってきた。

 最初の変化は匂いだ。食べ物を焼く匂いが少しずつ漂ってきている。

 すぐに道の左右に露店が見えてきた。あっという間に甘い匂いが混ざる。果物だ。今度はお魚。海が近いのかな、それとも川魚かな。わあ、パンの匂いだ。

 またンゴゴゴゴゴとお腹が鳴ってしまった。

 ああぁぁ、もう……。


「くくく。さっきより大きい」

「うるさい、笑うなー。紳士なら、こういう場合は聞かなかったふりした方がいいんだよ」

「俺は紳士を気取ったことなど一度もない。普通だ、普通」


 紳士でなくても普通でもないと思う。こんなもんが標準的男性であってたまるか。


「そーかもだけどー……」


 口の中が唾液でいっぱいで垂れちゃいそう。こんな状態になるなんて何ヶ月ぶりだろう。また口からものを食べられるようになるなんて。食べたいと思えるなんて。

 ああ、生きてるっていいなあ!


 街に活気が出てきた。夕飯の買い出しだろうか。露店にいっぱい人が群がっている。子供たちは走り回り、仕事帰りの男性ふたりと笑いながらすれ違う。

 たま~に、わたしの顔を見てギョっとした表情をする人がいるのは、ルナステラをその目で見たことのあるからだろうか。

 もう何度目だろう。男がわたしを見て立ち止まる。目を見開いて。


「……!?」

「あ、えっと。こんにちは」


 挨拶しただけなのに、逃げちゃった。

 ……彼女(ルナステラ)に何をされたのかな。


 立ち並ぶ露店の向こう側には、石造の建造物も見え始めた。バラックもまだたまに見えるけれど、ほとんどが屋根も壁もあるまともな家だ。穴あきの服装の人もずいぶんと減った。


「よかった。一応ちゃんとした街なんだ」

「いや、カリゴールには夜の顔がある。女性は特にひとりで出歩くのを控えた方がいい」

「そんなに物騒なの?」

「物のないところでは奪い合いが常に発生する。そして一度手を染めれば、その他の悪事にも容易く手を出すようになる。それが人間だ」


 そっか。やっぱ危険なんだ、この街。


「朝を迎えるたびに遺体が増える。ここはそういう場所だ」

「うん。心配してくれてありがとね。気をつける」


 その言葉に、ヴィルが怪訝な表情を見せた。


「何を言っているんだ? 俺はおまえの心配などしていないぞ?」

「んぇ?」


 親指を立てたヴィルが、ニカッと笑って言った。


「おまえを襲った悪人が肉塊にされてしまうのを心配しているだけだ。この俺が近くにいる限り、ルナにはそのような悪事は決してさせん」


 失礼すぎるっ!! しーまーせーん!

 でもまあ、なるほど。わたしはルナステラのカラダを使用している。人をちょっと押すだけで数十名を巻き込んで数十メートルを吹っ飛ばし、平手で叩けば一流の魔術師でさえ全身がねじ切れそうになるほどの威力を生み出す。

 だから――。

 取りようによっては、ヴィルはわたしのことを心配してくれているとも言える。ほら、ドラマとかでよくある、不良の将来を本気で案じている警察官のように。

 このカラダ(ルナステラ)のせいで、わたしまで不良扱いじゃん。

 でもまあ、そういうふうに心配されるのは嫌じゃないかも。


「う~ん、ありがとう? ちゃんと更生させてね?」

「ふ、任せておけ」


 な~んか納得いかないなあ。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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