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魔女×筋肉  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』


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何も考えずに生きている




 わたしたちは日の沈む方角へと、ひたすら草原を歩いていた。ううん、わたしたち、というよりはヴィルは、だ。

 わたしはヴィルに背負われていたから。

 わたしが裸足だから気を遣ったのか、それとも彼が言ったように、単に筋トレがしたかったからなのかまではわからない。

 いずれにしても、紳士なのだと思う。たぶん。きっと。そうだといいな。


「ヴィルってお父さんみたい」

「そんな年齢ではない。というか、俺よりおまえの方があきらかに年上だぞ」

「へえ……え!? そんなわけないじゃん?」


 自分で言うのもなんだけど、ルナステラのカラダはすごく可憐なのに。


「いや、ヴァストゥール家がルナステラによって倒壊させられた日に見た彼女の姿は、いまのルナと変わらん。ルナステラは年を取らんのだろうな」


 いくら魔女でもそんなことある?


「実際に記録によれば、ルナステラは数十年前からすでにその存在を目撃されている」

「ええ!? わたし、お婆ちゃんなの!? ……それ、彼女のお母さんとかじゃないの?」

「さてな。それより質問を蒸し返すが、ルナはこれからどうしたいんだ?」

「……? だから、靴と食べ物を――」

「そうではない。もっと長期的な話だ」


 あ、そっか。カリゴールは永住できるような街じゃなかったんだった。でも、どこに行っても魔女は追われる身らしい。国を移っても、国境を越えて討魔連盟が追ってくる。

 じゃあどうしたらいいんだろうと、少し考える。

 答えはひとつ。魔女狩りをやめてもらうしかない。


「ねえ、ヴィル。連盟に出資している国っていくつあるの?」

「世界の大半の国家が共同で出資運営している。大国と呼ばれる国力のある国に至ってはすべてだ。出資していない小国に逃げようとも、おまえがルナステラの肉体である限り連盟は追ってくるだろう」


 そうよね。じゃあやっぱりもう根本から断つしかない。


「その連盟の拠点ってどこにあるの?」

「……おい、おいおいおい、何を考えているんだ?」


 ヴィルの声があきらかに戸惑った。ずっとわたしを背負って歩き続けてきたのに、その歩みさえとめてしまって。

 だからわたしは背中からヴィルの顔を覗き込んで、努めて明るい声で言う。


「連盟の一番偉い人のところに行って、説得できないかなーって思って。どうせ逃げても仕方ないんでしょ。だったらこっちから行くよ」


 ややあった。

 ややあって。


「ふ……」


 ヴィルがうつむき、再び歩き出した。

 太陽が赤く染まって夕日が草原を静かに照らす。

 彼の肩が、背中が、少し揺れていた。歩み以外の原因で。


「どうしたの?」

「ふ、くく、くっくっく、ぶふ、は――っ」


 そうして突然、ヴィルは大声を上げて笑い出した。

空を見上げ、大口を開け、野太い声で大笑いだ。


「ちょっと、真面目に聞いてる?」

「ぶは、ふふ、ははは! いや、すまんすまん! ぷ、くくく!」


 わたしは彼の背中で腰を上げ、身を乗り出し半眼になって横顔を睨んだ。


「……ヴィ~ル~?」

「いや、くくく。あまりに突飛過ぎてな。まさかそうくるか。考えたこともなかった」


 わたし、そんなに変なこと言ったかな。


「よもや連盟そのものをぶっ潰す気だったとはな。これは驚いた。おまえはやはりルナステラ・アストラルベインだ。たとえ中身が違ったとしてもな。――ふは、はぁーはっはっは!」


 え、待って待って。


「わたし、潰すとは言ってないよ。お願いするだけ。魔女狩りやめてくださいって」

「ハッ、どうせやり合うことになるっ。しかし真っ先に連盟を狙おうとは。いやはや、ルナステラですらそのような発想には至らなかっただろうよ」

「わかるの?」

「あいつがそう考えていたなら、大げさではなく世界は戦禍にあっただろう。魔族と人間族がそこら中で殺し合っていた時代のようにな」


 なぜ彼女はそうしなかったのだろう。本当に謎の多い魔女だ。


「だが、だからこそおもしろい」


 おもしろいって。他人事だと思って。

 でも彼、かなり楽しそう。こんなに笑う人だったんだ。

 こんな顔を見ていたら、わたしも嬉しくなっちゃう。


「手伝ってくれる? お互い無罪放免になって、生きたい場所に自由に行こうよ! 気ままに世界旅行とかできたら、きっと楽しいよ!」

「いいな。連盟には俺も頭にきていたところだ。やつらは俺が丹精込めて育て上げてきたこの筋肉を、魔法だなどとインチキ扱いをする。知らしめてやるのにはちょうどいい機会かもしれん」


 インチキって。わたしの力はその魔法(インチキ)なんですが。


「まあいいや。手伝ってくれるなら、一緒に説得だー! おーっ!」

「ああ! 完膚なきまでにぶっ潰してやろう!」


 いや、だから違うってば! この人と一緒に行って大丈夫かしら?


「ところで、連盟の本拠地ってどこにあるの?」

「知らん」


 ほんまこの人……。

 ノリだけで生きてるなあ。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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