魔女は無邪気に笑わない
首を失ったカイブツの肉体は、そのまま力なく脚から崩れ落ちていた。
わたしはようやく安堵の息をついて、その場にへたり込む。
ヴィルもまた空を見上げて息を吐いたあと、ゆっくりとわたしの方へと近づいてきた。そうして、わたしの表情を見て、怪訝な顔をする。
「む? 何がそんなに――」
理由はわかるよ。わたしは笑っていたから。おかしくておかしくて。
首狩りってラリアットだ。あんなのでカイブツを本当に倒しちゃうなんて。信じられない。
「あっははははっ!」
とても怖かったのに、不思議と涙ではなく笑みがこぼれた。カラダをくの字に折って大笑いだ。
いまも心臓は跳ね回っている。細胞のひとつまで、全身がびりびりと痺れて覚醒している。カラダのあちこちが痛いし、正直二度とごめんだ。
でも、でも。
わたし、いま、生きている!
「あは、あははははははっ! すっご!」
「そうだろう? 筋トレさえすれば、魔法などなくともこの程度のことはできるのだ!」
怖かった。本当にもうだめかと思った。病死の方が遙かにマシだと思った。
なのに、この実感。生きているという実感。走って、跳んで、抗って。救われ、戦い、生き延びた。
「あははははっ、そ、そうじゃなくてっ!」
「うむ?」
魔法に魔術、見たこともないカイブツに空の城。この世界は不思議なことばかり。病室のベッドに寝たきりだったのが嘘みたいな冒険だ。怖いけど癖になりそう。
だから、笑った。このときのわたしは、楽しくて笑っていた。
ヴィルが少し困ったように頭を掻く。
「しかし、今更ながらにだが、おまえは本当にルナステラではないのだな。あいつのことだ、演技の可能性も多少は疑っていたのだが。やつならワイバーンごとき、苦もなく灼き払っていただろうよ。それに、ルナステラならばそんなに無邪気には笑わん」
へえ、あれがワイバーンなんだ! 確か亜竜だよね!
この世界はおもしろいなあ。あんな生き物がいるだなんて。もっともっと、いろんなものを見てみたい。
「あはははははっ! 生きてる! わたし! あんなになったのに!」
「呆れたやつだ。死にかけたというのに」
ガクガクと足が震えていまにも崩れ落ちそうだけど、それすらいまは生への実感だ。いまあるすべてが、生きていればこそのこと。
自分で歩く世界は楽しい! うん! 確かに世界はわたしのおもちゃ箱だ!
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今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。
次話は日が変わる頃に投稿予定です。