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味方だと思ってたのに




 ヴィルがうなずく。


「魔人と人間の容姿には明確な差があった。それは人間にはない角や翼、尾、牙といった、魔法を扱うための魔力の供給器官だ。他にも様々あるが、陰部とかの話にも及んでくるから控えておく」


 言っちゃってる言っちゃってるぅ!

 ハッと気づく。


「えっと、街に閉じ込められたときにもぎ取られたっていう?」

「まあそうだな」


 うへぇ……。

 想像はしないよ。


「だがその話はいい。問題は魔人以外、すなわち戦後に現れ始めた魔女や魔法使いにはそれらの器官が存在しないということだ。少なくとも目に見えるところにはな」

「あ。じゃあ、人間と魔女に差はないんだ」

「そういうことだ」


 となると、魔女狩りの問題と言えばやっぱり――。


「冤罪の発生。えっと……濡れ衣かな」

「ぬれぎぬ?」


 言語は訳せても言い回しは伝わらないのか。


「わたしのいた国では無実の罪を着せることを、濡れた衣を着せるというの。それが濡れ衣」

「そうだな。自身にとって都合の悪い人物を魔女や魔法使いに仕立て上げれば、人間社会から抹殺することが許可されてしまう。証拠などいくらでもねつ造すればいい。それがいまの世界だ。この国だけではないぞ。人間族の形作る世界全体がそうなっている」

「そんな……だからわたしも濡れ衣を着せられて……」


 ん?

 ヴィルが半笑いであきれたように言った。


「いや、おまえは正真正銘の魔女だろう」

「ほんとだ。えっへっへ。――ヴィルは魔法使いなの? すっっごく強かったけど!」

「バカを言え。俺には魔法も魔術も武器も無用の長物。この筋肉さえあればな」


 ムキり、と両手を組んで豪腕を膨れ上がらせ、爽やかに白い歯を見せつける。

 ニカッ!

 やだ、こわい~……。

 何を勘違いしたのか、ふっ、と満足げに笑って腕を解いた。


「俺にも使えるとするなら、それは魔術だろうな。魔術は体質ではなく術式だ。森羅万象すべての生物が発する魔力を術式にてかき集め、力へと変換して行使する。これは励めば誰にでも可能だ。とはいえ凡人が生涯勉学に費やしても、一国を転覆させるような力は到底得られんだろうがな」


 数学みたいなものなのかな。答えはあるのだろうけれど、それでもたどり着けない境地があるみたいな。


「術式には底がない。現状最も術式の深淵に近しい場所にまで到達しているのが、七人の賢者。つまり七賢だ。あそこまでくると、もはや並の魔女や魔法使いですら太刀打ちできんだろうよ。筋肉がなければな」


 そう、なのかな。

 彼女の頬を撲ったときの感覚……。

 正直その気になれば、レニアさんひとりなら、わたしにもやれそうな気がした。でもバカにされそうだから黙っとこう。前世同様、このカラダも筋肉があるようには見えないし。


「話を戻すぞ」


 わたしは慌ててうなずく。


「あ、はい」

「魔女狩りの蔓延する世界で、ある時期から刑場に現れ、それを阻止し、執行者を皆殺しにする魔女が現れた」


 ヴィルの指がわたしの額にこつんとあてられた。


「それがルナステラ・アストラルベインだ」

「だとしたら、濡れ衣を着せられた人々を救ってきたルナステラは、それほど悪い魔女じゃないのかも。仲間を解放しようとしてるだけでしょ?」


 そう考えると、少しは気が楽になる。彼女はわたしじゃないけど、たぶんわたしだから。

 ……皆殺しというのは、やっぱり気になるけれど。


「いや。解放対象は魔女狩りに遭っているすべての人々だ。本物の魔女や魔法使いはもちろんのこと、濡れ衣を着せられた只人も、等しく彼女は解放してきた。それ以外の関わった全員を抹殺しながらな」

「う~ん……」

「やつの目的は俺も知らん。魔女仲間の解放なのか、あるいは体制への反発なのか。それとも己が力を示すためか。戦闘を楽しんでいるようにも見えた」


 一度言葉を切って、ヴィルは肩をすくめる。


「ただ少なくとも、濡れ衣を着せられた人々を救ってきたのは確かだ。それが目的ではなかったとしても、その数百倍もの体制側を殺してきたとしてもな」


 ヴィルが顔をしかめながら少し笑った。


「やつは自由なのさ。やりたいようにやり、生きたいように生きる。災害のようなものだ」

「そうなんだ」


 でもなんか。

 ルナステラの話を語るときのヴィルの表情って、ちょっと楽しそうに見える。


「連盟という言葉を聞いただろう。あれはルナステラに対抗するため権力者たちによって結成された、国家を越えて魔女を討つための組織、討魔連盟のことだ。通称は魔女狩り連盟。七賢は連盟の最高戦力兼執行部隊だと思っていれば相違ない」


 ルナステラに対抗するために選び抜かれた最高峰の魔術師たちか~。

 ふと気づく。


「そういえば、ヴィルは何しに処刑場に来てたの?」

「俺か? 俺はもちろん――」


 もしかしたらこの人、ルナステラを助けに来てくれていたのかも。

 だとしたら、ふたりって……恋人だったとか……?

 ひゃ~! わたし、どうなるの!? お付き合いとか、前世からは想像もできないんですけど!!

 ヴィルが拳を握りしめ、肘を曲げて上腕二頭筋を盛り上げた。そうしてぐるんぐるんと右腕を回す。


「俺はただ単に気に入らんルナステラをぶん殴りに来ていただけだっ!!」


 ニカッ!

 わたし、ほんとにどうなるの……?


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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