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ちょいちょいおかしくなる人




 でも、その話が本当だとするなら。

 わたしは――。


「わたし、魔族なの?」

「後述するが、おそらく違う。続けるぞ」

「お願い」


 むきり、と筋肉を盛り上げながらヴィルが腕を組んだ。こわ。


「敗北し残された魔族は、魔法を扱うための体内器官を破壊され、それぞれの土地に性別を分けられて結界で閉じ込められ、一度も外界に出ることが許されないまま、人間族の管理下で三世代ほどを経てゆっくりと滅亡していった」

「ひどい……」

「ああ、実に愚かしい。筋肉さえ鍛えていれば、そのような悲劇は起こらなかっただろう。だが、筋トレをしない人間は非力だ。それだけ彼らは魔族の力を恐れていたのだ」


 ちょいちょいおかしくなるな、この人。

 こうして魔族と魔法の時代は終わり、人間族と魔術の時代が到来した。

 世界に平和が訪れた――はずだった。


「はずだった?」

「ああ」


 ところがその後、人間族の中にも魔法を扱う者が出てきたのだ。魔族の魔法を。

 ヴィルがわたしを指さす。


「それがルナステラをはじめとする、魔女や魔法使いと呼ばれる存在だ」

「なる……ほど……」


 ごくり、と喉が鳴った。

 ヴィルが左の眉を跳ね上げて、懐から何か巾着のようなものをわたしに差し出してきた。反射的に受け取ると、ちゃぷんと音がした。革製の袋の中に水が入っている。


「すまんな。気づくのが遅れた。飲むといい」

「わ、ありがと!」


 正直火に炙られて、大暴れして冷や汗を掻いて、もう喉なんてカラカラだった。まあ、喉が鳴ったのは男性とふたりという状況に緊張していたからなんだけれど。

 口をつけて喉を潤す。

 革袋のニオイが染みついているし、ヴィルの体温で生温かい。それでもカラダに染み込んでいくのがわかる。ただの水なのにおいしい。

 と、全部飲むのは悪いよね。

 半分ほど飲んでしまってから返した。


「ごちそうさま」

「うむ」


 そう言ってヴィルは今度は自分の口にもっていく。

 飲む気だ。


「ちょ――!?」

「なんだ? まだ足らんのか?」

「た、足り、ます。はい」

「ふむ」


 大きな手で革袋を絞るように握りしめて飲んでいる。

 間接ぅ~……。

 いやさすがにそんなこと気にするなんて、わたしが子供っぽすぎるか。中学校以降は学校ろくに行けてなかったからね。きっとわたしが異常なんだ。で、この人が正常。

 イラ……。

 そんなわけないでしょ! 百歩譲ってもこの人ちょっとおかしいよ!

 そういえばルナステラっていくつなのだろう。感覚的に十代後半から二十歳くらいに思える。


「続けてもいいか?」

「あはい!」


 また怪訝な表情をさせてしまった。

 ヴィルがひとつ咳払いをする。


「魔女や魔法使いの割合は、魔女狩りに焦点をあてれば、数万人にひとり程度だ」

「へえぇ。結構いるんだ」

「だがそれは到底正確とは言えない」


 わたしが首を傾げると、ヴィルは顔を左右に振ってつぶやいた。


「順を追って話す」


 彼ら彼女らの中でも一握り。そういった魔女の操る魔法はあまりに強大な力を秘めていた。

 彼らが魔族そのものなのか、あるいは魔族と人間族との間に結ばれた者がいたのかまではわからない。だが長きにわたる人魔戦争により、魔族という絶対強者に対し強い恐怖と劣等感を抱いていた人間族は、魔女や魔法使いと呼ばれる存在をひどく恐れた。

 ひどく、だ。


「結果として、魔女狩りというものが各地で開始された。みな臆病だったのだ。筋トレを怠――」

「わたしって、人間と魔族のハーフかもしれないんだ」


 おかしくなる前に阻止してみた。

 ちょっと不満そうな顔をしている。


「まあ、そういうことだな。ちなみに魔族とは魔人族のことだ」


 ヴィルは腕組みをして、小さくうなった。


「だが、な。そこに問題があった」

「問題?」


 魔女狩りに問題があるとするなら、それはきっと。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。


本日の投稿はここまでです。

お読みいただきありがとうございます。

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