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追放令嬢と異種族と、辺境領で理想の国づくりを始めました  作者: 宵宮ミレ
第2章「悪役令嬢、辺境に堕つ」

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46話「春風、次の一歩へ」

2章終わりです。

 あの決闘からほどなくして、ロイと視察団の一行は王都へ引き上げた。


 馬車へ足早に乗り込み、振り返ることもなく発っていくその様子は、まるで追われるようだった。


 負けを認めたくないのか、それとも余計な詮索を避けたかったのか──こちらへの報告もそこそこに、あっという間に姿を消す。


 その後、王都からの連絡は一切なかった。嫌がらせのような報告や、不利な訴えが届くかと身構えていたが、結局は何も起きない。


(……律儀に約束を守ったのか、それとも恥ずかしくて動けなかったのか。まあ、どっちでもいいけどな)


 そう思ったとき、胸の奥に残っていたわずかな緊張が、すっと解けていった。


 * * *


 それから季節は巡り、長く厳しかった冬がようやく終わりを告げようとしていた。


 雪解け水が小川を満たし、まだ冷たい風にも、少しずつ柔らかな陽射しが混じるようになる。


 フレデリカがレイフィールド領に来て、もうすぐ一年。


 この一年で、領地は確実に前へ進んだ。


 フレデリカの提案した配給制度は、働き手の少ない家にも食糧を行き渡らせ、冬の飢えへの不安を取り除いた。市場では、笑顔で買い物をする老夫婦の姿も見かけるようになった。


 エルミアが指揮した警備強化は、街道や市場の治安を安定させ、商人や旅人を安心して迎えられる環境を整えた。街には遠方から来た商隊が、以前より多く見られる。


 そしてフィーネの農業支援は収穫量を底上げし、備蓄を十分に確保できる状態を維持している。農民たちの掛け声が、今年も畑いっぱいに響いていた。


 どれも、俺ひとりでは到底できなかったことばかりだ。


 三人と手を取り合ってやってきた道は、間違いじゃなかった──そう、胸を張って言える。


 * * *


 春の畑。農民たちが鍬を振るい、笑い声と土の匂いが混ざり合う。子どもたちは種袋を抱えて駆け回っていた。


 俺とフレデリカは並んで、その光景を見つめていた。


「フレデリカが来て、もうだいぶ経つな。ここの暮らしはどうだ?」


 問いかけると、フレデリカは少し目を細め、遠くを見やった。


「来る前は……正直、あまり良い想像はしていなかったわ。けれど今は、思っていたよりずっと充実しているの」


「それは良かった」


 俺が素直に返すと、彼女は肩をすくめ、口元に小さな笑みを浮かべた。


「もちろん、大変なことも多かったけれど……その分だけ、何かを作り上げている実感があるわ。王都にいた頃は机上の勉強ばかりだったから」


 その笑顔は、この地に来たばかりの頃とは違い、柔らかく自然だった。


「俺も、正直、公爵令嬢が嫁に来るって聞いたときはどうなることかと身構えたよ。けど今は、来てくれて良かったって思ってる」


「あら、珍しく素直じゃない」


「俺だって感謝くらいは口に出すさ」


「殊勝な心がけね」


 そこへ、後ろから元気な声が飛んできた。フィーネの声だ。


「おとうさん! おかあさん!」


 振り返ると、籠を抱えたエルミアと、小走りのフィーネがやって来る。


 フィーネは息を弾ませながら、「今回も元気な植物がいっぱいだよ!」と籠を高く掲げた。


 エルミアは籠を支えつつ、「市場の出店も、去年より増えそうです」と笑みを見せる。


「冬を越えたばかりで、財布の紐が固いかと思ってたけどな」


 俺の言葉に、エルミアは肩を竦めた。


「むしろ、冬を無事に乗り切れた自信が、皆の顔に出ています。フレデリカ様の配給制度のおかげですよ」


「間に合って良かったわ。これからもっと忙しくなるわね」


 フレデリカが穏やかに返すと、フィーネは大きく頷き、「今年もいっぱい頑張って、美味しいもの作ろうね」と笑顔を見せた。


「市場もさらに広げたいですね。珍しい品があれば、人も集まりますし」


 とエルミアが提案する。


「いいな。人の流れができれば街も活気づく」


 俺が応じると、フレデリカも静かに頷いた。


 誰もが前を向き、次の季節の話に花を咲かせている。その横顔を見ていると、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 仲間を得ることが、これほど心強いとは。一人でやっていた頃には想像もしなかった。


 * * *


 三人の声を聞きながら、俺はひとつの決意を固めた。


 この勢いを止めるつもりはない。もっと、この地を豊かに、強くしていく。


 領内の安定は整いつつある。ならば──


(そろそろ、外との関係にも踏み出す時だな。亜人の集落とも接触してみたい)


 容易な道ではないだろう。それでも避けていては未来は開けない。


 春の風が畑を吹き抜け、芽吹き始めた緑が一斉に揺れた。


 それは、新しい一歩を静かに後押ししているようだった。

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