ユウトの「寄り道」と、偶然の遭遇
月城ユウトは、七瀬みことと一ノ瀬すみれの秘密を知って以来、自分を取り巻く世界が、以前よりもずっとカラフルに見えるようになっていた。彼は、完璧に見える人々の裏側に、様々な人間らしい一面があることを知り、そしてそれを守ることの責任と、それによって生まれる特別な絆の尊さを感じ始めていた。
その日、ユウトが学校帰りに駅前の繁華街にいたのは、ある目的があったからだった。 「母さん、最近疲れてそうだったしな……」 彼の母親は、最近新しい仕事を始めたばかりで、慣れない業務に追われて疲れ切っていた。そんな母親を少しでも励ましてあげたいと、ユウトは考えていた。 「そうだ、前に雑誌で見た、新しいケーキ屋さんのモンブラン、美味しいって言ってたな」 彼は、駅前の商店街に新しくオープンしたばかりのケーキ屋を目指していた。そのケーキ屋は、テレビでも紹介されるほどの人気店で、特にモンブランが絶品だと評判だった。母親はモンブランが大好物なので、きっと喜んでくれるだろう。
学校を出たユウトは、電車を乗り継いで駅前の繁華街へと向かった。時刻は午後6時前。空はまだ明るかったが、街には早くもネオンが灯り始め、仕事帰りの会社員や、友人たちと遊びに来た若者で賑わっていた。 ユウトは、人混みを縫うようにして、目的地であるケーキ屋へと向かっていた。周りには、学生服を着た生徒もちらほら見かけるが、皆、自分たちの世界に没頭している。 「この辺だったはずなんだけど……」 彼はスマホで地図を確認しながら、少し裏道に入った。メインストリートから一本入ると、人通りは少し減り、小洒落たカフェやバーが軒を連ねていた。
その時だった。 ユウトの視線が、ふと、ある一軒のカフェの前に引きつけられた。 それは、いかにも可愛らしい内装で、大きな窓からは店内の様子がよく見えるカフェだった。店名が書かれた看板には、「Fairy’s Garden」と書かれている。そして、何よりも目を引いたのは、店の入り口に立つ店員の姿だった。
彼女は、フリルのたくさんついたメイド服を身につけていた。頭には白いカチューシャ、エプロンは純白で、膝丈のスカートからはスラリとした足が伸びている。メイド服を着た店員がいる店は、最近流行りのコンセプトカフェだろうと、ユウトはすぐに理解した。
だが、ユウトの目を釘付けにしたのは、そのメイド服を着た店員が、あまりにも見覚えのある人物だったからだ。 ユウトの観察眼は、遠目からでも、その人物の特徴的な立ち姿、姿勢の良さ、そして、他を寄せ付けないような凛とした雰囲気を見抜いていた。 「……え?」 彼は、思わず立ち止まった。 他の道を歩いている人たちは、それぞれの目的地へと急いでいる。友人とおしゃべりしながら歩く女子高生、スマホを見ながら早足で通り過ぎる会社員、腕を組んでウィンドウショッピングを楽しむカップル。誰も、そのメイドカフェの店員に特別な視線を向けてはいない。彼らにとっては、街によくあるコンセプトカフェの、ただの一店員に過ぎないのだろう。
しかし、ユウトにとって、その姿はあまりにも衝撃的だった。 そのメイド服を着た店員は、間違いなく、星見高校の風紀委員長、御影ことねだったのだ。