七瀬みこと:完璧の仮面と、剥がれる覚悟
月城ユウトは、七瀬みことのアニメダンス動画流出寸前、一ノ瀬すみれの小説特定騒動、御影ことねのメイドカフェ勤務発覚、そして花園レイカの貧乏アパート目撃という、ヒロインたちの幾多の秘密露呈の危機を、彼女たちとの協力によって乗り越えてきた。そして、桜井ゆづきの元アイドルスキャンダルという最大の危機も、ヒロインたちの連携プレイと、ユウト自身の奔走によって、辛うじてその広がりを食い止めることができた。この一連の出来事は、彼とヒロインたちの間に、単なる「秘密の共有者」を超えた、深く揺るぎない絆と信頼を育んでいた。
しかし、これらの危機を経て、ヒロインたちの心には、もう一つの大きな変化が訪れていた。それは、「秘密がバレてもいい」という、恐れからの解放と、ユウトへの真摯な愛情の自覚だった。
七瀬みことにとって、「完璧」であることは、彼女の存在意義そのものだった。学園の美の象徴として、常に優雅で、常に笑顔で、誰もが憧れる存在であること。しかし、その裏で、彼女は誰にも言えないアイドルアニメへの情熱を秘めていた。もし、その秘密がバレれば、彼女の「完璧」なイメージは崩壊し、嘲笑の対象となるかもしれない。文化祭での動画流出危機は、その恐怖を彼女にまざまざと突きつけた。
あの時、ステージ上で絶望に打ちひしがれていたみことの目の前に、ユウトが必死に駆け寄ってくれた。そして、他のヒロインたちが、彼女の秘密を守るために行動してくれた。その瞬間、みことの心に、これまで感じたことのない温かい感情が込み上げてきた。
危機が去った後、ユウトが「大丈夫ですか?」と心配そうに声をかけてきた時、みことの胸は、これまでにないほど強く脈打った。 「月城くん……私、あの時、本当に……」 彼女は、言葉に詰まった。恐怖と絶望、そして、ユウトたちが助けてくれたことへの感謝。様々な感情が入り混じっていた。
ユウトは、何も言わずに、ただ静かにみことの隣に座っていた。その温かい眼差しに、みことの心は溶けていくようだった。 (もし、あの動画が完全に流出して、私の完璧なイメージが壊れてしまったとしても……) みことは、目を閉じて考えた。学園中の生徒が、彼女を嘲笑い、失望の目を向けるかもしれない。今まで築き上げてきた全てが、一瞬にして消え去るかもしれない。 しかし、その想像の先に、ユウトの顔が浮かんだ。彼だけは、あの動画を見て、彼女を嘲笑うどころか、真剣な眼差しで「格好良い」と肯定してくれた。彼女がどんなに隠したいと思っていた秘密も、彼は温かく受け入れてくれた。
「月城くん……」 みことは、ユウトの手をそっと握った。ユウトは、驚いたようにみことを見た。 「私ね……あの時、思ったの。たとえ、この秘密がバレて、私の完璧な私が壊れても、月城くんだけは、私をありのまま受け入れてくれるはずだって」 彼女の言葉は、震えていたが、その瞳はまっすぐユウトを見つめていた。 「自分の秘密がバレてもいいと思えるくらい……私、月城くんのことが……好きになったみたい」 彼女は、完璧な笑顔ではなく、照れと、そして真剣な愛情を込めた、素の笑顔でそう告げた。 この瞬間、みことの心は、「完璧な私」という呪縛から解放された。彼女は、ユウトという存在を通して、自分自身の価値は、誰かの期待に応える「完璧さ」だけではないことを知ったのだ。そして、その覚悟が、彼女を真の愛へと導いた。




