スクープ写真の影と過去の悪夢
月城ユウトは、七瀬みことの動画流出寸前、一ノ瀬すみれの小説特定、御影ことねのメイドカフェ勤務発覚、そして花園レイカの貧乏アパート目撃という、ヒロインたちの幾多の秘密露呈の危機を、彼女たちとの協力によって乗り越えてきた。その経験は、彼とヒロインたちの間に、単なる「秘密の共有者」を超えた、深い信頼と連帯感を育んでいた。しかし、最も繊細で、最も隠したがっていた「秘密」を持つ桜井ゆづきに、最大の危機が迫っていた。それは、彼女の「元天才子役アイドル」としての過去、そしてそれにまつわるスキャンダルが、週刊誌によって暴かれようとしているというものだった。
桜井ゆづきは、かつて「天才子役アイドル・桜井夢月」として一世を風靡した。しかし、その華やかな世界の裏で、彼女は大人たちの思惑に翻弄され、心身ともに疲弊し、深い孤独を味わった。特に、彼女が引退を決意するきっかけとなったのは、ある根も葉もないスキャンダル記事だった。当時、彼女はまだ幼く、その記事によって心に深い傷を負い、芸能界から姿を消した。そして、誰も自分を知らない場所で、「普通の女の子」として静かに暮らすことを何よりも望んでいた。
しかし、その平穏は、ある日の放課後、突然破られた。 ユウトは、いつものように下校途中、コンビニに立ち寄った。雑誌コーナーで、何気なく週刊誌の表紙に目をやると、彼の心臓が凍り付いた。 そこには、見慣れた桜井ゆづきの顔写真が、大きく掲載されていた。そして、その横には、衝撃的な見出しが踊っていた。
「伝説の天才子役『桜井夢月』、学園潜伏発覚! あのスキャンダルの真相、そして新たな恋人!?」
表紙には、ゆづきの現在の写真と共に、幼い頃の彼女がアイドルとして活動していた頃の写真が並べられていた。そして、記事の見出しには、「新たな恋人」という煽り文句まで添えられていた。
ユウトの心臓が、ドクン、ドクンと激しく鳴った。 (なぜ……!?なぜ、今になって……!) 彼は、すぐに週刊誌を手に取り、記事を読み始めた。記事には、ゆづきが星見高校に転校してきたこと、そして彼女が学園内で「謎の転校生」として注目されていることが記されていた。さらに、幼い頃のスキャンダルが再び掘り起こされ、まるでそれが真実であるかのように書かれていた。そして、「新たな恋人」という文言は、明らかに最近、ゆづきと行動を共にすることが増えたユウトを指しているものと思われた。
ユウトの脳裏に、文化祭前夜に見た不審な男子生徒の姿が再びフラッシュバックした。生徒会室に忍び込み、何かを盗み出していたあの男。もしかしたら、あの時盗まれた情報が、今回の週刊誌のスクープと関係しているのだろうか?それとも、ゆづきの過去を知る芸能界の人間が、彼女を再び表舞台に引きずり出そうとしているのか?どちらにしても、事態は最悪の方向へ向かっていた。
ゆづきが長年隠し続けてきた秘密、そして過去の悪夢が、今、世間に白日の下に晒されようとしていた。彼女が必死に手に入れた「普通の女の子」としての平穏な日常は、音を立てて崩れ去るだろう。




