文化祭前夜の不穏な影
月城ユウトの高校生活は、もはや「地味」という形容詞では説明できないものになっていた。彼は、学園の「完璧な」ヒロインたち、七瀬みこと、一ノ瀬すみれ、御影ことね、花園レイカ、桜井ゆづき、それぞれの誰にも知られてはならない「秘密」を共有する唯一の存在だった。彼らの秘密を知り、それを守り続ける中で、ユウトは彼女たちに特別な感情を抱き始め、同時に彼女たちもまた、彼に深い信頼と好意を寄せるようになっていた。
しかし、その秘密の絆は、常に危ういバランスの上に成り立っていた。いつかその秘密が外部にバレてしまうのではないかという、漠然とした不安。そして、その不安は、予期せぬ形で現実のものとなろうとしていた。それは、ユウトを狙う第三者の策略、あるいは偶然のアクシデントによって引き起こされる、秘密露呈の危機だった。
最初の危機は、学園最大のイベントである文化祭で訪れた。
星見高校の文化祭は、毎年大盛況となる一大イベントだ。各クラスが趣向を凝らした出し物を企画し、全校生徒がこの日のために準備に奔走する。七瀬みことのクラスも例外ではなかった。彼女のクラスは、カフェとステージ発表を組み合わせた「エンジェルカフェ・ドリームステージ」という企画を立てていた。みことは、その中心となって企画を牽引し、ステージ発表では、クラスの代表としてソロで歌を披露することになっていた。
ユウトは、みことの歌唱力とダンスの実力を知っていた。彼女が、その完璧な美貌と歌声で、観客を魅了することは間違いないだろう。しかし、ユウトの胸には、拭いきれない不安があった。彼女の「アニメダンス完コピ」という秘密だ。音楽室での練習では、あまりにも完璧なパフォーマンスを見せるみこと。もし、彼女のステージ発表中に、何らかのトラブルで、その秘密が露呈するようなことがあれば……。
その不安は、文化祭前夜に現実味を帯びてきた。 ユウトは、文化祭の準備で残業していた帰り道、校舎の裏手で、見慣れない男子生徒が、不審な動きをしているのを目撃した。彼は、生徒会の役員が使用するような生徒会室の鍵を手に、何かを漁っているようだった。ユウトが物陰に隠れて様子を伺うと、その男子生徒は、手早く何かを取り出すと、人目を避けるように走り去っていった。 (今の生徒は……誰だろう?そして、何を盗んだんだ?) ユウトの胸に、嫌な予感がよぎった。生徒会室には、各クラスの企画内容や、ステージ発表のデータなどが保管されているはずだ。
翌日、文化祭当日。校内は活気にあふれ、生徒たちの熱気で満ちていた。みことのクラスのステージ発表は、午後のメインイベントだった。ユウトは、自分のクラスの出し物の手伝いを終えると、すぐにステージ会場へと向かった。




