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七瀬みこと:完璧の陰に潜む素顔への誘い

月城ユウトの日常は、もはや「地味な高校生」とはかけ離れたものになっていた。七瀬みことの完璧な笑顔の裏にあるアニメへの情熱、一ノ瀬すみれの知的な仮面の下で燃える官能的な創作意欲、御影ことねの厳格な風紀委員長の裏で妹のために奮闘する姿、花園レイカのお嬢様然とした振る舞いの奥に隠された貧しい現実、そして桜井ゆづきの神秘的な雰囲気が覆い隠す元子役アイドルとしての孤独。学園の「完璧な」ヒロインたちの、誰にも知られてはならない「秘密」を、彼はすべて知ってしまった。

当初、ユウトはただ彼女たちの秘密を守る「共犯者」であり、「仲間」であると考えていた。彼女たちが秘密を知られて動揺した際、その秘密を決して漏らさないと固く誓い、彼らの心を安堵させ、信頼を得た。その結果、ヒロインたちは彼にだけ素顔を見せるようになり、ユウトの周りには、これまで経験したことのない「特別な関係」が築かれていった。

しかし、その関係性が深まるにつれて、ユウトは彼女たちからの好意に気づき始めた。そして、それに伴い、彼自身の心にも、ただの「仲間意識」ではない、特別な感情が芽生え始めていることに戸惑いを覚えていた。

「この関係は、秘密に支えられているだけなのだろうか?」

彼は自問自答を繰り返す。彼女たちの秘密を守ることが、彼自身の喜びとなっている。だが、その喜びは、単なる友情や連帯感だけなのだろうか?それぞれのヒロインとの関係を振り返るたび、ユウトの心は複雑な感情の渦に巻き込まれていった。

七瀬みこととユウトの関係は、音楽室での「秘密の目撃」から始まった。学園の美の象徴である彼女が、人目を忍んでアイドルアニメのダンスを完コピしている姿。初めてその秘密を知った時、ユウトは純粋に驚き、そして彼女の完璧な姿からは想像もつかない情熱に圧倒された。彼は、その秘密を「格好良い」と肯定し、誰にも漏らさないと約束した。

その日から、みことはユウトに対して、他の誰にも見せない素顔を見せるようになった。完璧な笑顔の裏で、アニメの話題になると瞳を輝かせ、時に興奮して早口になったり、照れて頬を染めたりする。そのたびに、ユウトの胸には温かい感情が広がった。

ある日、ユウトが教室で参考書を読んでいると、みことがそっと隣に座った。 「月城くん、この間のアニメ、もう見ましたか?あの回の作画、本当に素晴らしくて……」 彼女は、まるで親しい友人のように、屈託のない笑顔で話しかけてきた。その笑顔には、学園の美少女としての隙のない笑みとは違う、もっと人間らしい、無邪気な輝きがあった。 (七瀬さんは、僕の前では、こんなにも無邪気なんだな……) ユウトは、みことの言葉に相槌を打ちながら、彼女の横顔をちらりと見た。彼女の目元には、微かにクマができていた。きっと、夜遅くまで練習やアニメ鑑賞に打ち込んでいるのだろう。

「七瀬さん、最近、少し疲れていませんか?あまり無理しないでくださいね」 ユウトが、つい口にしてしまうと、みことは少し驚いたように目を丸くし、そして、ふわりと笑った。 「ええ、少しだけ、ね。でも、月城くんがそう言ってくれると、なんだかホッとします。他の人には、なかなかこんなこと言えないから」 彼女の言葉に、ユウトの胸が締め付けられた。彼女は、常に「完璧」を求められ、その重圧に耐えながら生きてきた。そんな彼女が、自分にだけは弱さを見せ、安らぎを感じてくれている。その事実が、ユウトの心を温かくした。

「この関係は、秘密に支えられているだけなのだろうか?」 みことの笑顔を見るたび、ユウトの心にその問いが浮かんだ。彼女は、自分の秘密を知る「仲間」だから、安心して素顔を見せているだけなのか?それとも、そこには、もっと別の感情が芽生えているのだろうか?彼女が自分にだけ見せる無邪気な笑顔が、ユウトの心を揺さぶり始めていた。彼は、彼女の笑顔をいつまでも守っていたいと、強く感じ始めていた。


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