七瀬みこと:完璧な笑顔の裏の独占欲
月城ユウトは、七瀬みこと、一ノ瀬すみれ、御影ことね、花園レイカ、そして桜井ゆづき。学園の「完璧な」ヒロインたち全員の、誰にも知られてはならない「秘密」を共有する唯一の存在となった。彼らの心は、ユウトの誠実さに触れ、それぞれが彼に特別な感情、つまり「恋心」を抱き始めていた。
しかし、その「特別な感情」は、ユウトが自分以外のヒロインとも親密になっているという事実に、複雑な影を落とし始めていた。各ヒロインは、ユウトとの間で育まれた「秘密の共有」という絆を大切にしながらも、彼の視線が自分以外にも向けられていることに、うっすらと気づき始めていたのだ。表面上は親しい友人関係を築きつつも、その裏では、ユウトを巡る微かなる牽制と、微妙な駆け引きが始まっていた。
七瀬みことは、ユウトにアニメオタクの秘密を知られ、それを肯定してくれたことで、長年の息苦しさから解放された。彼女にとってユウトは、自分の「完璧」な部分だけでなく、誰にも見せない「素」の部分を受け入れてくれた、かけがえのない存在だった。その安らぎは、やがて甘い恋心へと変わっていった。
しかし、ユウトが他のヒロインたちとも親しく話している姿を目にするたび、みことの心には微かなざわめきが生まれた。特に、以前はほとんど接点のなかった一ノ瀬すみれや御影ことねと、ユウトが時折親密な様子で話しているのを見ると、胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われた。
ある日、放課後。みことは、ユウトが図書室の入り口ですみれと楽しそうに話しているのを目撃した。すみれの表情は、普段の冷静な才女の仮面を脱いだかのように柔らかく、ユウトに何か熱心に語りかけていた。ユウトもまた、真剣な表情で彼女の話に耳を傾け、時折頷いている。 (一ノ瀬さんと……あんなに親しそうに話すなんて……) みことの完璧な笑顔の裏で、微かな独占欲が芽生えた。ユウトは、自分の秘密を「肯定」してくれた唯一の存在。だからこそ、彼が自分にとっての「安らぎ」であるように、他の誰かにとっての「安らぎ」になるのは許せない、と無意識のうちに感じていた。
その日の夜、みことはユウトにメッセージを送った。 「月城くん、明日、放課後少しだけ時間をいただけませんか?先日のお礼をしたいことがありまして」 それは、あくまで「お礼」という名目だったが、彼女の本当の目的は、ユウトを独り占めする時間を確保し、彼との絆を再確認することだった。 翌日、ユウトが応じてくれた放課後の帰り道。みことは、意図的に彼の隣にぴったりと寄り添って歩いた。 「月城くんって、いつも誰にでも優しいですよね。そういうところ、本当に尊敬します」 彼女は、褒め言葉の中に、他のヒロインにも優しく接していることへの、微かな牽制を込めた。 「七瀬さんこそ、いつも完璧で、誰からも慕われてるじゃないですか」 ユウトの言葉に、みことはさらに笑顔を深めた。 「そうでしょうか?でも、月城くんがいてくれるから、私は私らしくいられるんです。他の人には、なかなかこんな風には……」 彼女は、自分とユウトの特別な関係性を強調し、他の生徒とは一線を画していることを暗に伝えた。ユウトが自分の「完璧ではない部分」を受け入れてくれたように、彼女もまた、ユウトの「地味な部分」を受け入れている。その唯一無二の絆を、他のヒロインたちとは違うのだと、言葉の端々に込める。
他のヒロインと廊下で会うと、みことは普段通り「ごきげんよう」と優雅に挨拶を交わす。しかし、その瞳の奥には、ユウトを巡る微かな探り合いが含まれている。 (あの子も、月城くんと秘密を共有しているのかしら……) 完璧な美少女の笑顔の裏で、みことの心は、ユウトを巡る複雑な感情に揺れていた。




