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ユウトとの再会、そして秘密の「肯定」

ユウトに秘密を知られてから数日。みことは、登下校中や廊下でユウトとすれ違うたびに、その視線を恐れるようになった。彼の視線が、まるで自分の秘密を暴くかのように感じられたのだ。しかし、ユウトはいつもと変わらない、しかし少しだけ彼女を気遣うような、穏やかな視線を向けるだけだった。

ある日の放課後、みことは学校の図書館で参考書を借りた帰りだった。ふと、廊下の突き当たりにある、あまり人が通らない階段の踊り場で、ユウトが何かの資料を読んでいる姿を見かけた。彼の横顔は真剣で、いつものように周囲には溶け込んでいるが、どこか集中している雰囲気があった。

みことは、彼に声をかけるべきか躊躇した。秘密を知られて以来、彼と二人きりになるのは初めてだった。 しかし、彼の口から再び、あの時の「格好良かったです」という言葉を聞きたい衝動に駆られた。 「……月城くん」 みことは、意を決して声をかけた。 ユウトは、顔を上げ、驚いたようにみことを見た。そして、すぐに立ち上がり、彼女に向き直った。 「七瀬さん。お疲れ様です」

みことは、緊張しながら、しかし勇気を出して尋ねた。 「あの……この間、音楽室で見たこと、本当に……その、気持ち悪いとか、引いたりとか、思ってないの?」 彼女の言葉は、まるで喉から絞り出すようだった。これまでの人生で、こんなにも自分の弱さを露呈するような言葉を口にしたことなど、一度もなかった。

ユウトは、みことの言葉に、少しだけ目を見開いた。そして、真剣な表情で首を横に振った。 「そんなこと、一度も思っていません。むしろ、僕は七瀬さんが、そこまで打ち込めるものがあるなんて、すごいなって思いました」 彼の言葉は、あまりにも真っ直ぐで、みことは一瞬、息が止まるかと思った。 「七瀬さんは、いつも完璧で、誰からも憧れられる存在です。でも、裏では誰にも見せずに、必死に努力している。そして、自分の好きなものに、あそこまで情熱を傾けられる。僕は、その姿を見て、本当に素晴らしいと思ったんです」

ユウトは、まっすぐにみことの目を見つめ、続けた。 「誰にも言いません。七瀬さんの大切な秘密は、僕が絶対に守ります」 彼の言葉は、まるで、凍った心を解かす陽だまりのように、みことの胸にじんわりと広がっていった。 「秘密を嘲笑うことなく真剣に受け止め、決して漏らさない」という彼の固い決意が、彼女の心に深く響いた。

みことは、知らず知らずのうちに、安堵の息を漏らしていた。 (ああ……そうか。この人は、本当に……) 彼女の目から、再び涙が溢れそうになった。それは、以前の絶望や感動とは異なり、まるで長年背負ってきた重荷が、ようやく地面に下ろされたかのような、深い安らぎの涙だった。 完璧な自分を演じ続けることの息苦しさ。誰にも理解されない趣味を隠し続ける孤独。その全てを、ユウトは、たった数日で、そしてたった数言で、肯定してくれたのだ。


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