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僕だけが知っている、彼女たちのヒミツ  作者: すぎやま よういち
秘密の共有と信頼関係の構築
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一ノ瀬すみれ:理性と感情の狭間で

図書室での一件以来、一ノ瀬すみれは、月城ユウトと顔を合わせるたびに心臓が締め付けられるような思いに駆られていた。学年トップの才女が、人には言えない「ちょっとエッチな恋愛小説」を書いているなど、もし学園中に知られたら、彼女の築き上げてきた知的なイメージは全て崩壊する。

翌日、放課後。すみれは、いつものように図書室へ向かうフリをして、人通りの少ない旧校舎の裏手に回った。そこには、すでにユウトが待っていた。彼から「USBメモリの件で、少しお話したいことがあります」と、放課後に呼び出されていたのだ。 「月城くん……」 彼女の声は、普段の冷静さとはかけ離れて、僅かに震えていた。ユウトは、申し訳なさそうに頭を下げた。 「昨日は、すみませんでした。USBを拾って、中身を見てしまって……」 ユウトの率直な謝罪に、すみれは少し拍子抜けした。もっと責められるかと思っていたからだ。

「それで、どこまで……読んだの?」 すみれは、一番聞きたかったことを、震える声で尋ねた。彼女の頬は、微かに赤らんでいた。 ユウトは、視線を泳がせながら、正直に答えた。 「ファイル名と、冒頭の数行を……その、図書館の、ええと……」 彼の言葉に、すみれの顔はさらに赤くなる。 「そこまで読んだなら、もう分かったでしょう……私が、どんなものを書いているか」 彼女の語尾は、ほとんど消え入りそうだった。才女としてのプライドが、粉々に砕け散りそうな瞬間だった。

しかし、ユウトは、真剣な表情ですみれの目を見つめ、言った。 「はい。でも、その……すごく、情熱的で、人間らしいと思いました」 「……え?」 すみれは、ユウトの言葉に驚き、顔を上げた。 「一ノ瀬さんは、いつも完璧で、理論的で、僕なんかが遠くから見ている存在です。でも、あの小説を読んで、一ノ瀬さんも僕たちと同じように、感情豊かで、色々なことを考えているんだって、少しだけ……人間らしさに触れられた気がして」 彼の言葉は、すみれの心の奥深くに響いた。彼女は常に、完璧であることを求められ、自分自身の感情を抑圧してきた。理性と知性だけが、自分の価値だと思い込んできた。

ユウトの言葉は、そんな彼女の抑圧された感情を肯定し、彼女の「人間らしさ」を、初めて認めてくれたものだった。 「私……このことを、誰にも知られたくない。特に、学校の先生や、クラスの皆には……」 すみれは、そう言って、ぎゅっと拳を握りしめた。彼女の顔には、まだ羞恥心が残っていたが、それ以上に、ユウトの言葉への安堵が浮かんでいた。 ユウトは、真っ直ぐに彼女の目を見つめ、深く頷いた。 「分かります。僕が、絶対にこの秘密を守ります。誰にも言いません」 彼の言葉には、一点の曇りもなかった。

「絶対にバレたくない!っていうか、私、書いてる内容が……ちょっと、えっち……!」 彼女は、顔を真っ赤にして、しかし真剣な眼差しでユウトに訴えかけた。その言葉は、彼女の理性とは裏腹の、少女らしい切実な願いだった。 ユウトは、その彼女の赤面と、そして切実な願いを、真摯に受け止めた。 この瞬間、一ノ瀬すみれの知的な仮面の下に隠された情熱的な心が、ユウトにだけ開かれ始めたのだった。


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