表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけが知っている、彼女たちのヒミツ  作者: すぎやま よういち
秘密の共有と信頼関係の構築
14/90

ユウトの「猫探しの散歩」と、路地裏の異変

月城ユウトは、七瀬みこと、一ノ瀬すみれ、御影ことね、そして花園レイカと、すでに四人のヒロインたちの秘密を知る羽目になっていた。彼の日常は、もはや「地味」とは形容しがたいものになっていた。それでも、彼は秘密を抱える彼女たちの人間味溢れる一面に触れ、どこか親近感と、そして誰にも言えない秘密を共有する「仲間意識」のようなものを感じ始めていた。

その日、ユウトが自宅近くの路地裏を散歩していたのは、彼のささやかな「日課」のためだった。 彼の家では、かつて猫を飼っていた時期があった。しかし、数年前に老衰で亡くなって以来、新しい猫を飼うことはなかった。ユウトは、散歩中に時々見かける野良猫に、亡くなった愛猫の面影を見つけ、密かに癒やされていたのだ。 特に、最近彼の家の近くの路地裏に住み着いている、毛並みの美しい三毛猫がお気に入りだった。警戒心が強く、なかなか近づいてはくれないが、時折物陰から彼を見つめているのを感じることがあった。

時刻は午後5時半。夕暮れが迫り、空が茜色に染まり始めていた。 ユウトは、学校から帰宅後、夕食前の短い時間を利用して、いつものように散歩に出た。彼の自宅周辺は、古い住宅と、所々に新しいアパートが混在する、典型的な住宅街だった。路地裏は入り組んでおり、地元住民しか通らないような道が多い。 子供たちの遊ぶ声が遠くで聞こえ、夕食の準備をする家庭から、美味しそうな匂いが漂ってくる。ユウトは、そんな穏やかな日常の音に包まれながら、三毛猫がよく現れる路地裏へと足を進めた。

「今日もいないかな……」 いつもの空き地のフェンスを覗き込むが、猫の姿はない。 ユウトは、さらに奥の、草木が生い茂る細い道へと進んだ。ここは、ほとんど人が通らない、猫たちの秘密の通路のような場所だった。

その時だった。 彼の耳に、普段の路地裏の静けさとは異なる、不自然な「シャッター音」が、連続して聞こえてきた。そして、何かの低い声が聞こえる。 「クソっ、もう少しだ……!」 ユウトは、不審に思い、音のする方向へとゆっくりと足を進めた。彼の観察眼が、ただならぬ「気配」を捉えていた。

草木の隙間から覗くと、そこにいたのは、スーツ姿の男だった。 男は、高そうな一眼レフカメラを構え、路地裏の奥にある古民家の敷地内を、まるで獲物を狙うかのように撮影していた。 そして、その男の背後には、彼が乗ってきたであろう、目立たない色のバンが停まっている。 「こいつは……」 ユウトは、直感的に何か悪いことが起きていると察した。その男の服装や、プロ仕様のカメラ、そして隠れるように撮影している様子から、ユウトは、彼が週刊誌の記者か、あるいはパパラッチではないかと推測した。

男の口元から、さらに独り言が聞こえてくる。 「くくく……まさかこんな所に隠れてたとはな。『桜井夢月』……ようやく尻尾を掴んだぜ。この写真で、また一儲けさせてもらうか……!」 その言葉に、ユウトはハッとした。 「桜井……夢月?」 それは、星見高校の謎の転校生、桜井ゆづきの、まさしく本名だった。 男の狙いは、桜井ゆづき。そして、彼は彼女の「秘密」を暴こうとしている。

その瞬間、ユウトは視界の隅に、見慣れた三毛猫の姿を捉えた。猫は、路地裏の奥の草むらで、何か物陰に隠れるようにして、じっと男の様子を伺っていた。 その猫のすぐそばには、偶然にも、桜井ゆづきが、その三毛猫に餌をやろうとして、しゃがみ込んでいる姿があったのだ。 彼女は、男の存在にはまだ気づいていないようだった。

男は、カメラを構え直し、狙いを定めた。 「よし、これで完璧だ……!」 彼は、ゆづきが猫を撫でている、微笑ましい、しかし「元アイドル」という秘密を暴くには十分すぎるほどのシャッターチャンスをものにしようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ