宝はきっとゴミの中
その11 宝はきっとゴミの中
馬鹿馬鹿!私の馬鹿!
ぐつぐつ頭が煮えたぎって沸騰している。理屈じゃなく体が動いている。えらそうなことを言っておいて、結局自分がこの始末?これでのこのこ謝りにいくしかないってことにだけは。それだけにはしたくない。
わんわんと沸騰してあふれたものが、他に形をとられないまま涙になって流れていく。それをぬぐって唇をかんで、ワゴン車に乗り込むとエンジンをかけた。
「あんの馬鹿!!」
ワゴンが走り去ったあとを見送って、真紀が悪態をつく。
「また感情だけで後先考えずに突っ走ってーっ」
行く所くらいは想像つくが、その場所だって知っているとは思えない。
ただでさえ寝ていなくて感情的になっている。無理やり連れ戻すのは無理だ。本当に厄介なんだから。
タウンページをめくり、電話番号を確かめて携帯電話に入れる。
もう少し頭を使いなさいというのに。
応答があって、真紀はにこりと打って変わった笑みを浮かべた。
「もしもし?わたくし内倉真紀と申しますが、局長様いらっしゃいますでしょうか」
「えっと確かこの道沿いに・・・」
焼却場があったはずだ。高い煙突の。
目を凝らしているところに、真紀さんから携帯に電話が入った。
「はい?」
「馬鹿ね!今どこにいるの?」
「今焼却場に・・・」
「近いほうじゃないと思うわ。あれは月2回頼んでいる臨時的なものだと思うから。山手の高速道路が建ちかけているとこあるでしょう。あっちの方だって。すぐに焼却しないみたいだからもしかしたらあるかもね。言っておくけど、タイムリミットは午後二時よ。夜の便でしょ。それまでにいったん戻ってきな。バイク便でも間に合わないからね」
「真紀さん・・・ありがと」
なんだか胸がいっぱいになってそれだけいうと、
「礼は早いでしょ。これで見つかったらいいけど。それじゃーね」
「うん」
方向転換して、教えてもらったほうに進む。
でもやっぱり、甘くなかったんだよね。
たどり着いた収集所のおじさんは、そんなもの知らないの一点張り。おまけに、ゴミの埋め立て場は立ち入り禁止区域に入るから絶対に出入り禁止。こういう種類のゴミの収集車が来ているのかどうかすら教えてくれない。
「大体、別の所に行っている可能性もあるでしょう。うちだけじゃないんだし」
「分かっています!でも、友人がこっちだって調べてくれたので、確実なことなんです」
「ふうん?誰に聞いたって?ここで詰めているのは俺のほかにももう一人要るけど、別に電話でそんなことをもらしたりしていないよ。手の込んだ悪戯だがね、さ、もう十分だろう。帰った帰った」
犬でも追い払うように手を振られる。
「ちょっと待って!」
閉められそうになった窓口の窓に手をはさむ。
「悪戯じゃないんです。どうしても必要なものなんです!お邪魔はしませんから、探すだけさせてください」
窓口の親父は嫌そうな顔で容子を睨んだ。
「あんたね、だから言っているでしょうが。ここは部外者立ち入り禁止なんだって。だからなんと言われようと・・」
言葉をさえぎるように白髪のおじいさんが後ろからその親父の肩をたたいて電話をさす。
親父は眉をひそめて、
「ほら、こっちは忙しいんだから帰った帰った」
ぴしゃりと今度こそ閉められて、容子はため息をつく。
無理か・・・
もう本当に何にもできることないのかな。
きびすを返して帰りかけた時。
「ちょっとあんた!本当に、自分で勝手に探すだけだな?」
再び窓が開いた。
それに、容子は勢い込んで頷く。
「その戸をまわって奥。金網の向こうだ。好きにしろ」
「ありがとう!」
気が変わらないうちにと容子は扉から入って金網を押し開ける。
むっと何ともいえないにおいが鼻を突いた。
広大な広大な野原。そこが、ゴミで覆われているだけでここまで酷いありさまになるのだということに、足を止める。においと熱気とハエが飛び交い、カラスが何かを啄んでいる。ゴミの只中に放り出されて、しばらく容子は途方にくれた。
夕方、胡散臭げに見ているだけだった親父がやってきて、もう暗くて見えないだろうと外に引っ張っていった。シャワーを借りて洗い流し、上だけでも着替えると大分すっきりとした。
「もう諦めな」
そういってくれた言葉が、打って変わって優しく響いた。
分かっていたよ、そんなこと。多分見つからないとも思っていたし、見つかったとしてももうそれじゃ、どうしようもないんだって事。
分かっていたけど。
「お邪魔しました。ありがとうございました」
頭を下げる。
言われたとおりに事務所に帰ると真紀さんが待っていた。
「はい着替え。シャワー借りられたんだ。ラッキーだったね」
何にも問わずに服を差し出し、有無を言わせずに着替えさせられる。着替えて事務所に入ると、ホットコーヒーが入っていた。
ふわりと湯気のたったコーヒー。
分かっているの。変なんだよ今。だから、こんな些細なことで何だかすごく泣きたくなってくるし。
「部活終わったら、早川君たちもこっち寄るって」
「何で?そんな必要ないのに」
「あんたね、それだけ心配されているんだから。自覚しなよ」
たしなめるような口調が、すごく癇に障った。今むき出しの神経に触れたみたいに。かっとなる。
「必要ないよ!何で?彼らはバイト生だよ?私のミスだもの。それをあの子達に言ったんだ真紀さん」
口にすると、それは途方もない裏切り行為のように思えた。自分のミスを、自分たちが雇っているバイト生にばらす?
信じられない!
「容子、そんなの分かるでしょ。電話して聞いたこともあるし」
ちょっと困った目で真紀さんが見返してくる。
でも止まらない。熱に浮かされたみたい。
「だからって。また真紀さん、彼らを巻き込まないでよ。私が何とかするもの。できるし。すぐにいろんな人から手を借りようとするから、駄目なんでしょう!それをしないために独立したんでしょ!今のまんまじゃ何にもできないお嬢様ってのと全然変わっていないじゃない!!」
言い過ぎた。
口を閉じてすぐ、顔から血の気が引く。
慌てて顔を上げると、真紀さんのこわばった顔が飛び込んできた。
「真紀さ・・・」
立ち上がると、真紀さんはきびすを返した。戸口で足を止めて振り返る。
「そうよね。確かにまだまだ頼りっきりよね。でも、あんたは一人で何もかも解決できていたわけ?一人で抱え込むだけ抱えてうんうんうなっているだけじゃない。一人で抱え込まれて動けないくせに、周りに助けてもらう度量もない奴なんてこっちも願い下げだわ!」
すぱんって音、立てて心臓のど真ん中に突き立ったような気がした。鋭いナイフの刃だけが切り裂いて、突き抜ける。
追わないとって思うんだけど、さらさらと指から砂みたいに逃げていく。その力が逃げていく。パタパタとかけていく音を耳で聞きながら、結局できたのはその場の床に崩れ落ちることだけ。
鏡みたいに、真紀さんに投げた言葉のナイフが返ってきて自分に刺さる。
違うよ。私なんて・・・いっつも真紀さんに頼ってばっかりだよ。分かっているし、知っているよ。
それなのに、人には頼っていないって言い張っている大馬鹿者だよ。
「つ・・」
何だか痛いと思ってじっと床を見ると、床についた指にコーヒーが滴っていた。ホットコーヒーがこぼれてかかっているのに気が付かなかった。淹れ立てだったんだろう。すごく熱いから。熱いって感じるのが、ずいぶん鈍っている感じがする。水の中にいるみたいに、じわじわと来る。痛みも。
「容子さん?!」
ゴミ収集については良く知りませんので完全フィクションと言うことで・・・突っ込みなしでお願いします~(^^/