表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖女を疎んだ人間の話。

作者: みや毛

よくある一人がいなくなったら瓦解する国って国といえるのか?というのを考えてたらちょっと変な方向に行きつきました。


……え、あ?あの、いま、私に話しかけたんですか?はぁ、えっと、死刑早まったとか?違う?事情聴取?

……へー、それって、情状酌量で無罪になる、とか、刑が軽くなる、って感じじゃないですよね。ハハ、でも、喋んなきゃ痛めつけられる、みたいなやつですよね。


……アハ、かったる。皇帝陛下の溺愛に、下々の人間巻き込まないでほしいんですけど。うわっ!牢屋蹴らないでください!殺すなら殺すで、一撃で……あ、はい、しゃべればいいんですよね、はい。……はぁ。


えーと、聖女さまが追放された時、どう思ったか、ですっけ。あ、やっといなくなってくれるんだ、って、思いましたよ。……彼女の力をみくびってた?バカにしないでください。当代最強どころか史上最強のバケモノですよ、あの方。だからこそほっとしたんじゃないですか。

どういうことか?え、あたしに説明させるんですか?あ、でも、そっか。そちらの国は魔法使いがあまりいなかったですよね。じゃ、ピンとこないか。はい、じゃあ、そうですね、説明します。


あの聖女さまは、守護、治癒、浄化、破魔、豊穣、予知。あらゆる力を持った超有能才女様でした。普通、聖女も聖者も、一つの聖なる力しか持ち得ません。それをあの方は過去に現れた権能をすべて、かつ、これ以上ない聖力と合わせて持っていたんです。

……怖いでしょ。え、すごい?いや、まぁ、すごいんですけど……あの、そちらの国も皇帝陛下がバリバリって感じだからピンとこないですか?


……わからないですか?あのですね、それだけの力を持ってしたら、この国の全て、あの方だけで良くなるんですよ。

あの方の守護の結界はこの国をまるっと包んで、害意のあるものは入国をさせませんでした。


……いいことだと思うんですね?それで職や敬意を失うことになった結界術師や、騎士がいても。

あの方の癒しの術は死でなければ癒しうる、それで、医師や薬師は辺境に移ることになりました。ま、それでもアグレッシブな聖女さまは、王都から離れた場所でも「何か」あれば文字通り飛んできていたので、そうですね、流行りの風邪とか腰痛とかばかり見ることになったんじゃないでしょうか。勿論、みんな健康ならそれが一番ですけど。


でも、新薬開発とか病気のこととかで研究費用をもらいたくても聖女さまのいるうちは、で予算カットされた組織も多いみたいですよ。ほら、大抵ケチですから、上の人って。今必要ないものに投資ってしてくれないんです。


魔物を狩る必要もない、解呪も必要ない、それで、色々な人が今まで誇りに思ってこつこつとやってきた仕事を災害みたいな天才が全部全部消していった。

……あ、ちなみにあたし、錬金術師なんです。そうですね、主に農産物関連の薬を作ることを専門にしてました。虫害が出た時の薬とか農薬とか、肥料とか、そういうの作ってたんですが、聖女さまの豊穣の力のおかげで、お払い箱、です。ハハ。


そうそう、あの方、そういう力だけじゃなくて発想力も凄いんですよ。斬新な魔導具を何個も作り出して、それで魔器研究所とかも肩身狭い思いしたし、政策だって打ち出せるもんだから文官の方もたじたじでした。


──あの方の万能の奇跡のために、あたしたちの日常はあっけなく塗りつぶされる。


この国は、あの方一人だけで支えていけてしまうものになってしまった。それって、箱庭とどう違いますか。あの方がもし死んでしまったら、今更どう日常に戻るんですか。その時になってやっとあたしたち、思い出してもらえるんですか、「あ、そういえばいたっけ」って。

……だから。あたし、あの王子が婚約破棄で国外追放、なんてめちゃくちゃなバカをやってくれて本当に安心したんです。「ありがたいよ、でも……」そうやって顔を曇らせる人を、もう何度見たかわからないですから。


はぁ。善意でやってることなんてみんなわかってますよ。じゃあ、善意でやってたら全部許せますか?

あの方がもしいなくなってしまったりしたら、埃を被ってたあたしたちが引っ張り出されて、それで、「聖女さまだったらもっと……」って色んな人に落胆されるんだとしても?……ま、これは言っちゃえば被害妄想なんですけど。


これでわかってもらえました?あたしたちが多大な恩恵を受けたはずの聖女さまに手を差し伸べなかった理由とやら。他にも聞く予定かもしれませんけど、大体みんな同じこと言うんじゃないかなァ……


尊敬してます、感謝もしてます、でもやっぱり嫌いでした。


完璧すぎるからというか、単純に、貴方のためにって言って手足をもがれる感じが。だからいなくなってくれて安心したのに、皇帝陛下に見初められて戻って来ちゃうんだもんなあ……美少女って、すごいですよね。


……ふぅ、これで、あたしから話すことは全部です。へ、不満じゃないか?そりゃ不満ですよ、あの方に優しくできなかったやつら皆殺しってどんな暴君ですか?愛が重いってよりは、怖いんですけど。

でも、もう、いいです。あたしにとっては、あの方がいない世界に行ける方が嬉しいから。

じゃ、もう明日に備えて寝ますので。さようなら。


……あなたもちょっと考えてみては?どれだけ素晴らしくても、才能に再現性なんてないんだから。

蛇足:聖女は転生者。テンプレながら嫌われ聖女として断罪追放される予定だったので、追放されないようにみんなに感謝される聖女になろう!と張り切ってたら張り切りすぎた模様。おれつえーの自覚はなく本当に100%善意。ありがとうって言われるときぎこちない人がいたのはきっとまだ嫌われてるんだ!と思い込み突っ走った結果より敵を生み出してた様子。


組織っていうのはワンオペじゃダメですよねえ。任せてる人間のためにではなく、全体のためにという話。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これは上の立場の方々が悪いのでは? 聖女1人居ればヨシ!な今のうちに人育てておいて、いざって時にすぐ対応できる体制を作っとくとか。それこそ不測の事態に備える準備っていつするの?今でしょ!って感じで。 …
産業革命にありがちでかつ後世の人間から見落とされがちなラッダイト運動と同じことだな。 現代でもオートメーション化やAI導入で業務の効率化によって失職していく人間が後を絶たないことを想像すればわかりやす…
私も同じようなこと考えたことあります! そっか、聖女視点じゃなくて一般人視点で書けばよかったんだ。 といっても私に文章力ないんですけどね。追放系もある意味これと同じような感じなのかなぁ? 面白かったで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ