2-2
チーム1:
「……ハルくん、何今の」
「……」
「ハルくん?」
無数の手を見た瞬間、三人とも反射で扉から手を離していた。現在扉は閉まっており中から物音1つしない。3人とも同じものを見た、であれば見間違いではないだろう。
「……とりあえず鍵閉めておくぜ。ここは保留だ、一旦戻ってみんなと連絡を……っ有翔!」
「へ?」
気味の悪いものを見た後だったから気が動転しているのだと、鮫島は先ほどから見えていたソレを気のせいだと思い込もうとしていた。しかし闇の中からぼんやりと霞んでいたそれは次第に人の形を形成し、彼女の肩に手を伸ばそうとしていた。履いていた靴を投げつけ咄嗟に鮫島は彼女の腕を掴み走り出す。
「と、とらくんっ今の何かな!?」
「知らねえよ!とりあえず逃げろ!!」
その時、上階から犬飼の悲鳴が響いてくる。
「っ、零士!?」
「……鮫島くん、こっちは任せて2階に行っておいで。後で合流しよう!有翔、こっち」
動揺する鮫島の横から会長が顔を出しスルリと有翔の手を取る。鮫島は階段へ登り、会長は廊下奥の突き当たり"大広間"と書かれた扉へ飛び込んだ。扉を閉め手早く中から施錠する。
「……大丈夫かい。有翔、怪我は?」
「ううん、なんともないよ!……ここは何だか明るいね?」
天井は高く、窓の数も多い。上には荘厳なステンドグラスが飾られている。わずかに斜陽が差し込んでいる、外は夕方4時頃だろうか。
「さっきのアレなんだったんだろうね……ハルくん?」
座り込み、俯いたまま返事のない会長の肩を揺らす。俯き垂れた髪で顔が見えない。
「ん、あぁ……なんだろうね」
「ハルくん、具合悪いの?元気ないし。最近なんだか変だよ、ひかちゃんも気にしてた」
「そうかな。寝不足気味なんだとは思うけど……でも大丈夫、体は至って元気さ!」
心配そうに覗き込まれわざとらしく力こぶを作ってみせる。
────心当たりがないわけではない。
現に今だってひどく眠たい、眠気のせいか頭の上に何かがのしかかっているように重たい。ひと月ほど前から妙に寝不足なのだ。そのせいか所々記憶が飛んでいることがあり、きっと生徒会の仕事、家の事で忙殺され、疲れているからであろうと思い込んでいた。今日もその仕事が間に合わず直樹に頼んで今回は居残ってもらっている。
不振な点といえば、最近朝起きた時ベッドの中にいないことが多々あった。寝相が悪いというレベルの話ではなく、ソファの上であったりひどい時は玄関に座り込んでいたことだってあった。まるで寝ている間に自分で移動したのかとでもいうように。その証拠とでも言うように朝起きるとやけに自分の足が汚れている。夢遊病だろうか、自分の部屋に監視カメラつけて確認でもしてやろうかと思っていたところである。
「……あぁ失敗した。何時にどこに集合するか決めとけば良かった。圏外だし連絡取れないや」
やはり寝不足のせいか今ひとつ調子が出し切れてない。心配そうに覗き込む有翔の顔も歪んで見える。
「ハルくん、ちょっと休も?」
有翔の声を遠くに聞きながら深い眠りに落ちた。