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チーム3:別棟の探索。
はずれくじを引いた。どう見たって道なんかない。かろうじて獣道と言っていいのか細い枝の間を潜り避けながら2人は悪戦苦闘を強いられていた。
「……我思うのだが!配信された動画を見ればヤツらが落とした場所分かるのでは!?」
頭に枝が刺さっている。
「山田天才」
普通に考えたら当たり前のはずだが動画のことはすっかり頭から抜け落ちていた。心霊スポットの探索に余程心を奪われていたらしい。
荒れた庭の端にかろうじて形を保っているベンチに2人腰掛け、スマホを取り出す。屋外はかろうじて電波が残っているのか該当の動画を検索することができた。軽い音楽とオープニングと共に覆面の男二人組が現れる。深夜に訪れたのであろうか、真っ暗な闇の中館の前で何やら喋っている。
『おどろおどろしい建物ですね。さて!侵入してみようと思いま〜す…あれ、さすがに正面は空いてないか』
──おかしい。動画の2人は正面の扉以外の入口を探している。自分たちが入ってきた入口の鍵は破壊されていた。そんな様子は動画には収められておらず、彼らは建物の裏側──すなわちこれから捜索予定の別館へ向かっている。
「……鍵を壊すところは編集でカットしたのだろうか」
「いや、それなら入口探したりなんかしないと思う。壊したのはこいつらじゃないのか……?」
『やっと正面から見えていた塔にたどり着きました!』
『これって塔なんすか?母屋とかってやつなんすかね』
懐中電灯で建物を上まで照らす。蔦におおわれており庭の植物にほぼ飲み込まれている。
『ここは鍵は元々ついてなさそうですね。代わりになんだろうこれ、ロープ?……あ、やべ切れちゃった、あはは』
『もー何してんすかぁ……え?誰、うわぁ!?』
ガタガタと画面が揺れる。この先の動画は撮れておらず、気がついたら館の敷地の外で2人とも倒れていた、と後日談で話している。コメントの1部では画面が揺れる直前誰かが映っていたともある。
「なるほど面白い盛り上がってきた」
「我帰ってもいいだろうか!?」
目の前には動画内の別棟が聳え立っている。
「……でも、ここで奴らが落としたのは確実ではないか。やったなコサキ、我々の勝利だ。そして早々に帰ろう我腹がいた」
「いやせっかくだ、もう少し探索していこう。できるなら夜まで」
「だれか止めて……」
入口には奴らが切った縄が落ちており、扉は開いていた。昼間のはずなのに建物中は暗く外の気温が嘘のようにひんやりと肌寒い。建物に入った瞬間からまるで別の世界に踏み入れたような空気に引き込まれる。冷たい石壁と本館のような絢爛な家財はなく、質素なベッドと机と椅子といった生活に必要な最低限のものだけが置かれており伽藍としている。
「ここは、牢……?」
山田の言う通り窓には格子がはめられており更に板張りするという徹底ぶり、扉も北側であるため一切陽の光が入ってこない。
「う……こ、コサキコサキ」
山田が袖を引っ張り何やら壁を指さしている。
「何だ山田、腹痛酷いならトイレさが……ぁ」
指さす先には入口の縄と無数の御札がびっしりと張り巡らされていた。天井にまで続いており見上げるだけで目が回りそうになる。剥がれかかった1枚に触れようとした瞬間、
「おやここは随分と暗いね」
「っ会長!?」
入口に見覚えるあるシルエットが逆光で浮かび上がる。
「いやぁ君たち道なき道踏み込んでいくから心配でね!着いてきてしまったよ。おやおや山田くん角が生えてるのかなこれは」
泣きついた山田の頭から枝を引き抜いている。かくいう会長の体には葉っぱ1枚も着いておらず泥だらけの自分達とは対照的に汗の一滴も感じさせない涼しい顔をしている。
「……それは剥がさない方がいいと思うな、他に何か見つかったかな?」
そもそも彼らは建物の入口にしか入っていないはずであり、床にはもの一つ落ちていない。期待ほどの収穫を得られていないのが現状である。
「……あれ、これは?」
会長に縋り付いていた山田が今度は入口の床に張り付いていている。よく見ると山田の足元の石畳の一角が四角く切り出されている。端を上手く持てば持ち上げられそうだ。
「床下収納みたいだね、貸して……ヨイショ」
会長が1人で石版を両手で持ち上げてずらすと、物が収納されているわけではなく地下へ続く階段が現れた。