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チーム2:二階を探索。
「なんで姉さんとじゃないんだ」
「もう諦めなよ。俺とがんばろーぜ、源ちゃん♡」
仏頂面の後輩を犬飼はいつもの調子で宥める。一階と同様陽の光は少なく、手元の明かりがなければ些か心許ない。犬飼も明るい声を出してはいるものの不気味な雰囲気には慣れないのか若干顔が引き攣っている。
「そもそも、依頼主って誰なんですか?例のウィーチューバーだとしたら迷惑極まりないので垢BANしてやりましょう」
「会長が知ってるっぽいけど………あのさ、すげえどうでもいいこと言っていい?」
「なんですか」
「これさぁ、裸足っぽいの混ざってんだよね」
持っていたペンライトを床にかざす。舞い上がる埃の中の靴の足跡と一緒に点々と不自然な人の足型が続いている。さっと2人の背中に冷たい風が背中を撫でる。
「………中々猟奇的なウィーチューバーですね、世のためにやっぱり垢BANしましょう」
「……だよなぁ!こんなとこで動画撮るやつなんて変な奴に決まってるよな!」
「でも、この足跡辿れば懐中時計見つかるんじゃないですか?」
「さっすが源ちゃん!冴えてんじゃん」
床を照らせば足跡はある一定の方角へ伸びており、”??(読めない)の部屋”とプレートのかかった部屋の前に止まり広がっていた。
「ここっぽいね。誰かさんの部屋なんかな、お邪魔しまーす……」
犬飼がノックし中を覗き込む。部屋には大量の本が積み上げられており、埋もれるように机とベッドが置かれていた。1歩足を踏み入れるだけで埃が舞い上がり、もろに吸い込んだ犬飼は咳き込む。
「……ここだけやたら暗くね?」
窓ひとつなく陽が入らないためかひんやりとして肌寒い。
「…カビ臭、気味が悪い。さっさと探して帰りましょう……ん?」
コン、と何かをけとばす。埃の底に何かが埋まっていた物体をじゃらりと拾い上げる。煤と埃で汚れ錆びてしまっているが年季の入った鎖と金色の時計盤。電池が切れているのか針はぴくりとも動かないが、きっとこれが依頼された懐中時計であろう。
「ナイス!今日のMVPは源ちゃんだな!いやーこんな気味悪いとこ早く出ようぜ!」
「……そうですね」
解決したのにも関わらず気味の悪い違和感が浮上する。ここ最近失くしたものにしては埃をかぶりすぎている。少なくとも廊下の足跡よりももっと、もっと古い──
「ンだよ源ちゃん、怖いからってそんなに引っ付くなよ」
「は?あんたにくっ付く趣味なんかありませんけど」
「え?だってさぁ……」
源氏と反対方向の重たい右腕を振り返る。
暗闇の中、右腕に何かがまとわりついてる。黒い、これは長い……髪?隙間から血走る真っ赤な眼球がこちらを覗き込んで────
目が合ってしまった。
「ッうわああぁぁぁ!?」
腕を振り払い一目散に逃げる犬飼を追い、源氏も逃げようとするが埃に足を取られ床に身体を打ち付ける。目眩と痛みで悶える最中、反動で扉が閉まっていくのが見えた。遠くにペンライトが転がっているが手が届かない。一人暗い部屋に取り残されてしまったようだ。犬飼に振り払われた黒い何かは見えなくなったがここにいてはいけないとは頭の中は警報を鳴らしている。が、足を挫いたようで立つことができず、扉が閉まり殊更視界が悪くなったことが焦りを助長する。
「まずい……っ」
「大丈夫かい、源氏くん」
聞き慣れた声が頭上から降ってきた。