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ヨロスブ・繋  作者: 有氏ゆず
終幕
38/38




事件から数日後。




無事に回復した会長の奢りでヨロズ部メンバーで焼肉に来ていた。家のことに巻き込んでしまったせめてもの詫びと礼を兼ねてということらしい。部員の馬鹿騒ぎを部屋の隅で眺めている明臣に声をかける。


「あんたもしばらく寝込んでたって聞いたけど。体調はいいのか」

「いいから顔出してるんですよ。もうあんなのは懲り懲りです」


片手にグラスをもったまま、やれやれと大袈裟に肩をすくめて見せる。


「山の中荷台で運ばれて、埃まみれになりながら走り回されるんですから。たまに部活に出た途端にこれですよ」


タラタラと不満を垂れる割にはどことなく楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。本人に伝えたら怒り出しそうなので胸にしまっておく。




網の前で鮫島と肉を捌く会長を遠目に眺めながらぼんやりと思い出す。あの日の出来事は夢だったのではないか、と思ってしまうことがある。


会長が意識を取り戻し、洋館を出たのは夜の9時を過ぎた頃だった。レナがこちらに来る前に迎えを手配してくれており、無事みんな帰宅することができた。あの時の「私できる女でしょ」の顔が忘れられない。


流石に一日動き回った身体的疲労感と、殺伐とした奇妙な緊張感による精神的な疲労感で、その日は寮に帰るなり泥のように眠ってしまったこともあり記憶がところどころ曖昧だ。




「ま、ハルも元気になったみたいですし?一件落着ってことで」

「そういえば結局あの洋館はどうするんだ?」

「何にも決まってないですよ、私はさっさと取り壊しちゃえばいいと思ってるんですけどね。外観はともかく中なんて大暴れしたせいで酷い有様ですし、山の中なんて誰も用事ないですし……ハルはなんだか修復しようとしてるらしいですけど」

「なんでまた」

「………さぁ、なんででしょうね。本人に聞いてみたらいいんじゃないですか?あ、景國さん。私の焼いた牛タン食べてくださいよー」


トイレから帰ってきた山田を見つけるなり明臣はテーブルの方へ行ってしまった。なんだかはぐらかされたような、煙に巻かれたような。ふと会長と目が合う。




「……あれ」


一瞬、ほんの一瞬だけ。会長の顔から笑みが消えて生気の感じない人形のような顔になったような。


……そういえば、洋館に入ってから最初に有翔と鮫島は配電盤室にひとりで行った会長と一瞬だけ別行動をとっていたと話していたことを思い出す。


つまり、最初からずっと一緒にいた会長と偽物がその時入れ替わっている可能性があるわけで、あそこで楽しそうに座っている彼は果たして本物なのか、それとも─────………




「サキ、どうしたの。お肉食べないの、顔色悪いよ?」

「ん、あぁ。いや、大丈夫だ」


焼けた肉を乗せた皿を持って有翔が隣に座る。

なんでもない、考えすぎだと自分にも言い聞かせて、浮かび上がった不安を肉の味でかき消すように賑やかな食事の風景を眺めながら古は肉を頬張った。









人気のない林の中に古びた洋館が静かに佇んでいる。

暖かな日差しの差し込む客間から大きな柱時計の針の音と、荒廃した庭の木々にとまった鳥の囀りが穏やかに響く。


長く続く廊下の一室、「そうこ」と書かれた扉の中で大きな荷物に守られるように彼は静かに眠っていた。

降り積もった埃の層を指でなぞり、棺桶の主の名前を確認すると錆びついた懐中時計を取り出す。


「今度はこれを君に返さないと、ね?」


彼が目覚めるのはもう少し先の話。











ヨロズブ・繋[完]











《シン・ヨロズブ》に続く……





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