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「やあ、やっと君と話が出来る」
洋館の応接間に暖かな日差しが差し込む。奉日本晴臣は大きなソファに深々と座り、穏やかな笑みを携えながら対面に座る仏頂面の男に話しかける。男は聞こえるように舌打ちすると大きくため息をついた。
「……体を散々好き勝手に使ったことに対する恨み言か?それともお前の家に復讐しようとしたことに対する説教か?そんなくだらないことのためにこんなところに態々ご苦労なことだな、まあいい。どうせ俺は敗者だ、好き勝手搾り取るがいいさ」
「残念どれもハズレ。強いて言うなら源氏くんの足首に関して物申したいところではあるけれど……そもそもこんなところに私を引きずり込んで繋いだのは君の方じゃないか、覚えてないとは言わせないよ」
ニコニコと笑みを浮かべてはいながらも有無を言わせぬ圧を声から放たれ、男は思わず口をつぐむ。
「ふふ、かくいう私もついさっき思い出したのだけれど。さあ答え合わせといこうか」
テーブルに置かれた紅茶を口に含むと男は静かに語り出した。
「……12年前、私はこの洋館に連れてこられた」
「……へえ」
「呪われた洋館に置き去りにし、不慮の事故で双子の片割れを抹消しようとした先代の企て。本来連れて来られるはずだった兄弟に黙って私が勝手に入れ替わったがために結果としてはその計画も失敗に終わったんだけれど、代わりに私が数日間行方不明扱いされなければならなくなった。最初は好奇心いっぱいで探索なりして楽しんでいたんだけれどそうも行かなくなってきてね。この洋館で飢えと寒さを1人で凌ぎながら、6歳ながらに何とかこの山の中から帰る方法を模索していた」
遠い記憶をなぞる様に、晴臣は静かに語る。
「それでもいつしか限界はきて、子供の身体には中々過酷な環境だったようで私も動けなくなってしまって。そんな時誰もいないはずの洋館で誰かが私に助けの手を差し伸べてくれた」
「………」
男の眉間の皺が一層深くなり、イライラとしたように頭をガリガリと掻きむしる。晴臣は小さく笑いを漏らしながら続けた。
「私の身体を無理やり一時的に乗っ取る形で、本家の前まで連れていったくれたんだ。その時の私の記憶がないのはそれが原因。ただしその結果助けてくれた彼は数十年間封印を解くために溜め込んでいた力をすべて失うことになってしまった」
「……くだらない」
「しかし、ついひと月ほど前偶然にも君の封印が思いもよらぬ形で解かれることになった。復讐心が暴走した君は力を得るために、当時無理やり繋いだ私とのパスを利用して、再び私の身体を乗っ取ろうとした……さて、ここまででどこか間違いはあったかな。常磐鎌実くん」
膝の上で指を組みながら確認をとるようにそっぽを向く男の顔を覗き込む。鎌実は冷めたような目つきで晴臣を見据えた。
「ハッ勘違いも甚だしい。お前を助けようとしたんじゃない、最初から利用してやるつもりだったんだ。それにまんまとお前は嵌ったのさ!人をバカにするのも大概にするんだな、奉日本」
彼の問いかけを鼻で笑い吐き捨てるように返すと晴臣は静かに微笑みかけた。
「君の意図はどうであれ、結果として私は君の行動によって救われている。だから君がなんと言おうと私は君の中の善性を信じるよ」
思いもよらぬ方向から食らったボディブローに面を食らったかのように身じろぎをし、小さく舌打ちを漏らす。
「…………なんだよそれ、気持ち悪い」
そんな悪態も満足したように受け取るとゆっくりとソファから立ち上がる。
「さて、私はそろそろお暇させて頂こうかな。みんなが待ってる」
「ふん、さっさと行け。二度と会うことはないだろう」
玄関の方へ向かっていた晴臣は扉を開けながら振り返る。
「そうかな?私はまた会う気がしてるよ……それじゃあまたね、常磐鎌実くん」
ひらひらと手を振りながら静かに扉を閉めた。




