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───しかし、いくら経ってもそんなものは巡ってくることはなく、腹部を抉られる衝撃も襲って来ない。ゆっくりと瞼を持ち上げる。
パックリと腹部の衣服だけが裂け、肌に触れるスレスレで手刀は止まっていた。
「……クソっまだこいつこんなもの残して…!どれだけ我が強いんだよ…ッ」
目の前の男はもどかしそうに表情を歪めている。よく見ると源氏の足元が光っていた。
「……あの時のハンカチ…?」
暗闇で襲われた際捻った足首を彼が処置してくれたことを思い出す。偶然ではあるが、わずかながらに残した彼の朧げな意識が男の動きをとどめてくれていた。
「これだから…!奉日本の血は生き汚いんだ!お前らはどこまで俺を……ッ」
きっとこれは男にとって計算外のことなのだろう、苦し紛れに吐く言葉には余裕がないように見えた。これは好機、逃せば次はないことを確信する。
先ほどのフラッシュバックで喉元でつっかえていた引っ掛かりのような記憶を思い出していた。あの暗闇に現れた、真っ黒な悲しそうな化け物、いや女性が残した自分だけが聞き取れた言葉。確証はない、それでも襲うことなく託すように残していったものであるのなら、それはきっと意味あることのはずなのだ。
「──、─ジ──────ナ…」
「……何?」
肺いっぱいに空気を取り込み、講堂に響き渡るよう、深層意識の奥深くで眠る彼に届くように叫ぶ。
「─────サミジナ……お前の名は、サミジナだ!!」
ミシ、と何かがひび割れる音とともに男は胸を抑えながら苦しみ出す。
「グ、ウウウアアアァァ!?クソ、どうしてお前がその名を、我が名を…!!」
低い獣のような呻き声を漏らし、身体からは瘴気のようなものを出しながら膝から崩れ落ちた。真名を看破された獣はみるみるうちに力を弱らせていく。
「クソ……!やられるか、ここで我が怨念潰えてなるものか……ッ」
往生際の悪いことに悶えのたうち回りながらも、男は源氏に手を伸ばす。会長の身体を捨てて源氏を食らおうと最後の力を振り絞っていた。
「ふざけるな、ふざけるな……ッ朽ちる前にお前の身体を……」
「させるか!!」
男の身体を駆け寄った有翔が押さえつけ、落とした麻酔銃を拾い上げた古が男の眉間に銃口を向ける。
「おしまいだ、サミジナ。会長の身体を返せ……!!」
トドメを刺すように思い切り引き金を引いた。ドス、という鈍い音と共に男は静かに倒れ込んだ。




