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ヨロスブ・繋  作者: 有氏ゆず
35/38

7-2




ピリッと肌が痺れるような感覚が走る。部屋の空気がいっそう冷え込む────………奴が起きた。


先程まで寝転んでいた神々廻が既に会長の上に馬乗りになり押さえ込んでいる。ほかの部員も気がついたようだ。警戒するように会長を取り囲んでいる。




「あー……クソ、気持ち悪い」


起き上がった会長の口元が動いた、瞬間神々廻の表情が変わった。


「ッ!!頭下げろ!!」


彼の叫び声と同じタイミングで頭上に吊るされていたすべての照明が落下してきた。


「うわ……っ」


突風でガラスと埃が飛び散る。衝撃と肌を掠めるガラスの欠片に思わず身を屈め、柱時計のかげに隠れる。神々廻はレナを抱き上げ素早く飛び退いていた。部屋の中央で明臣一人が男と相対している。




「ああ、お前があの時の身代わりの元ネタか」

「ハルの顔でやめてくれません?気味が悪い」


先ほど部員たちに説明していた穏やかな言葉とは打って変わって鋭利な刃を喉元に突き立てる様な冷たい声音に思わず息を飲む。対する男は口元に軽薄な笑みを浮かべ品定めするように明臣を眺めている。男と明臣の距離は7、8mほど、麻酔銃の射程の間合いとしては些か距離があるように思えるがあの男が何をしでかすかも分からない。既に先手を打たれてしまい、頼りの神々廻はレナの守りに徹してしまっている今、警戒して間違いではないだろう。深く息を吐くと、キッと睨みつけるように対面する男を見据える。


「貴方の名前を教えなさい」

「────────………」


暫しの沈黙、先ほどまで飛び交っていたガラス片がすべて静かに床に落ちる。身を潜めていた部員たちは固唾を飲んでその様子を伺っていた。

表情の消えた男の目元がゆっくりと細くなる。




「───我が名はレギオン、我々は大勢であるが故に!」




高らかに歌うように、天に手を伸ばし踊るように。男が名乗りあげる声が響き渡る。


全身の毛が逆立つような、身体中の血液が燃え上がるような感覚。名乗りを聞いた時には既に我を忘れかけていた。小さく歯軋りをしながら明臣は間合いに踏み込んでいた。

古の隣に蹲っていた山田の表情が変わる。




「レギオン……?いや、違う……!これは罠だ、アキ!!」


何かに気がついた山田が駆け寄るよりも前に、明臣は照準を男に合わせトリガーに指をかけていた。


「レギオン……ッハルを返せ……!!」


狙い通り、男は避けることもせず、喉元に麻酔針が刺さる。男の動きが止まった。


終わった、はずなのに。なぜだか両手を上げて喜べないでいた。手応えがない。しっかりと命中したはずなのに呆気ない終わり方にその場を離れることができなかった。


「やった、当たった!アキさんナイス!」


歓喜で犬飼が身を乗り出し鮫島の背中をバシバシと叩く。安堵の息が漏れる中、山田だけが違っていた。




「アキ!!」


山田が明臣の腕を掴み思い切り引き寄せたのと同時に、明臣が立っていた位置に間一髪食器棚が落ちてきた。その勢いで明臣の手から落ちた麻酔銃が床を滑っていく。


「え……?」


呆気に取られる明臣に追い討ちをかけるように、床板に穴を開ける勢いで食器棚の中の銀食器が襲う。明臣を引きずるような形で散乱する部屋の中を山田は必死に避けながら駆け抜ける。


「アキ、アレは奴の真名ではない!」

「ッ!どうして、嘘はつけないはず……!」

「奴はレギオン……ただの悪魔ではなく、屋敷に吸い寄せられた悪霊も混ざった集合体の名だ!嘘はついていない、真実を答えていないだけだ!だがそれでは奴の存在が固定できない……!」

「それじゃあもう打つ手は…ッ」


喉元に刺さった針を引き抜きながら男は飛ぶように積み上がった椅子と机の上に立つ。


「ク、ふ……ッハハハハハハハッ!!それがお前たちの最終兵器とやらか、あの瀕死の魔女が必死に準備したものがそんなつまらないものだとはな!茶番もいいところだ」


さもおかしいとでもいうように、どこか悲しそうな声で顔を手で覆いながら乾いた笑いを漏らす。




「…あぁ、もういい。身体もそろそろ馴染んできた。─────さぁ大団円だ、おしまいにしようか」


割れたステンドグラスから差す月明かりの逆光で読めない表情の代わりに怪しく瞳が煌めく。目下の獲物を捉えると一直線に狙いを定めて飛び降りた。


「っ!」

「ひかちゃん!!」


部屋の隅に追い詰めるように、足首を痛め動けない源氏に影を落とすように男は足元へ降り立つ。


間近で見るよく知った顔に張り付いた表情も、聞き慣れたはずの声で吐き出す言葉もまるで別人のようで。自分を庇って食われた彼の血溜まりの臭いがフラッシュバックする。頼りになるあの人が全て飲み込まれていなくなってしまった現実を受け入れろと眼前に突きつけられた途端、自分の中で何もかもが停止してしまった。




「ぁ……」

「悪いね、こいつの血筋を呪うがいいさ」


ビキビキと音を立てながら、指先を変形させ鋭利なナイフのように爪を研ぎ澄まさせる。源氏のはらわたを食らわんと勢いよく腹部へ向かって振りかぶる。


「っ!!」


視界の端で姉が走ってくるのが見える。でもこれはもうだめだ、間に合わない。ぎゅっと目を瞑り、巡る走馬灯を待ち構える。



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