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「…つまり、"コイツ"に巣食う悪魔の名前を当てろってことか」
古来より名前は呪術的、魔術的にも重要であり、いわば言霊信仰ともされている。対象の名前を知ることで相手を支配することができるとされている名前の神秘性を利用し、得体の知れない悪魔の名前を知ることで相手の存在を固定し逃げ場を奪う悪魔祓いの手法の一つだ。
「そういうことになりますね。名前を当てることで弱体化を狙い、これでトドメを刺す」
明臣は背後から拳銃を取り出し古の胸に銃口を突きつけた。
「……これは?」
「地下の工房で見つけたものです。ご丁寧に説明書付きでした。彼女は悪魔を封印するための弾と祓うための弾を作り出していた……封印用はもう残っていませんが祓う用は3発、これをハルの身体にぶち込みます」
「ぶち込むって……銃で撃つってことでしょ?それってハルくんは大丈夫なの?死んじゃったりしない?」
背後から心配そうに有翔は覗き込むとツン、と古の胸に突きつけられた拳銃を突いた。
「あぁ、封印用と違って祓う用に残されたものは麻酔銃のようなものですから。内容物が劇薬でもない限りは死なないと思いますよ?」
つまり毒物であった場合死ぬ可能性もあるということか。ならば慎重にいかなければいけない。
「っていうかもうさっき一発打っちゃいましたし」
「はぁ!?いつの間に…!」
よく見ると会長の足元に注射器が1本刺さっている。なんの躊躇もなく判断が下せるところといい、くるくると拳銃を振り回しながらあっけらかんととんでもないことをカミングアウトするところはやはり会長とそっくりだと思ってしまった。
「今なら狙いを定める必要もないですし、劇薬かどうかなんて気にしたところでどうせいつかは打たなくちゃいけなくなるわけですからね。ハルには何の変化もないところを見ると毒が入っていたわけでもないことが分かりましたし、結果オーライってことで。まぁ悪魔が祓えたわけでもなさそうですけど」
確かに死んではいなそうだが静かに眠る会長の呼吸は穏やかではあるものの、顔色は依然として悪いままだ。冷たくなった会長の手を源氏が握りしめている。
「この麻酔銃だけじゃ解決はしない……やはり彼女の日記の通り、名前を特定して弱体化させてから出ないと効果を発揮しないようです。あと残りは2発……どなたか真名に心当たりのある方はいたりしませんか?」
この屋敷にきてからのことを思い返す。思い当たる節は見当たらない。他のメンバーも同様に首を傾げている。源氏一人を除いて。
「源ちゃんどうしたの?」
「……いや、何か忘れてるような」
歯切れの悪い言葉を呟きながら考え込み始めた横で山田が静かに挙手をする。
「悪魔は嘘をつくことが出来ない。故に本人にまず問うてみるのは……ある程度祓う側に力があれば、あるいは召喚者であった場合適応されるものなのかもしれないが」
「そうですね、それも一つの手段かなと思います。今回我々はど素人なわけですから。本来知識も力もない状態で悪魔祓いを行うことは大変危険であることは私も理解しています。ですが今回の召喚は中途半端であり、かつ一度は封印されているものが再び羽化しかけている状態。であれば覚醒しきっていない今なら真名を明かす事にだけ注力すれば可能性は大いにアリ、だと思うのです」
ひょっこりベンチの陰からレナが顔を出す。
「じゃあ晴臣が目覚めたタイミングで名前を聞けばいいのね」
「試す価値はあるかと、その間暴れないようにハルを抑えていて欲しいです。黎一郎さん引き続きよろしいですか?」
「おう」
神々廻は疲れたのか部屋の端に寝転びヒラヒラと手を振り答える。あの暴れようもそうだがどうやらここまで荷台を引いて走ってきたらしい。一体どんな体力をしているのやら。
神々廻に限らずほかのメンバーも表情を見るに体力的にも精神的にも消耗しているようだった。会長が目を覚ました後どうなるのか分からない。覚醒するまでの間に体力を回復しなければならない。古も部屋の隅のベンチに腰をかけた。どっと疲労が押し寄せ体が重たくなる。気を張りすぎたせいもあってか途端に眠気が襲ってきた。うとうとと、意識を手放し微睡むのも束の間だった。




