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屋敷に戻れた頃には日も暮れ始めていた。
静かだった。いつもの事ではあるのだが物音1つしない。堀夫さんたちはもう帰ったあとなのだろうか。
塔の入口は開け放たれている。中には誰もいない。隠し通路から本館へ走った。堀夫さんたちがもし残っていて見つかったらまずい。こっそり隠れながら中の様子を伺うことにした。
─────────最悪だ。
荒れた室内、割れた窓、血飛沫の跡、廊下に散らばる肉塊の腐臭が全てを物語っていた。
みんな死んでいる。
殺された、というよりこれは壊されている。ヒトだったものがごろごろと、見知らぬ男たちが混ざりこんでいるのはきっと堀夫さんたちだろう。
堀夫さんが鎌実に何を吹き込んだのか、何となく想像はつく。夏の陽射しに焼かれた上にゆり子さんと再会してしまったのだろう。居間に見覚えのない実験器具たちは堀夫さんたちが持ち込んだもので鎌実を利用しようとした結果、だとしたら。
17年間押さえ込んできた感情の揺り戻しがあってもおかしくない。
鎌実の中の悪魔は覚醒してしまった。
音を立てないよう隠し通路に戻り、棚の奥底に隠していたものを取り出しポケットにしまい正面玄関へ向かう。さも今帰宅したかのように、わざとらしく音を立てて扉を閉めた。
「鎌実」
待ち伏せていたかのように黒い影が廊下をゆっくりと歩いてくる。
肌は赤黒く変色し、鍬夫さん譲りの瞳は濁ってしまった。アレはもう鎌実ではない。
「…あなた、もう手遅れね」
そしてそれは私も。
鎌実だったものが激昂する。敵意を向けられた瞬間ガラス片が私の皮膚を裂き、足を潰された。それでも私はあなたを救いたい、もがくように手を伸ばす。お願い、これ以上罪を重ねないで。
「…っ、ダメ、鎌実!話を聞きなさい!」
「うるさい!!お前は俺を騙していた…!俺はお前を母親だとも思わない…!許さない、殺してやる…!!」
17年間の研究の中で私が見つけることが出来た唯一の鎌実の救済方法。それはあの子を殺すことだった。よほど強い悪魔を召喚したのだろう、簡単に引き剥がすことは出来なかった。無理に進めるとあの子の命を削ってしまうから。
殺すことでしか我が子を救うことができない、やっぱり私に母親なんて無理だったのだ。心のどこかで諦めていた初恋の人の子を育てることができる、なんて少し舞い上がっていた自分がいたことに対する私への罰なのかもしれない。
ポケットに忍ばせていた拳銃に特注の弾丸を嵌め込む。失血で震える手元を抑えながら銃口を向けた。
弾丸が胸を貫く。ゆっくりと倒れていく鎌実に私は謝ることしかできなかった。
お母さんじゃなくてごめんね、鎌実。
潰れた足を引きずり冷たくなった鎌実を抱き締める。鎌実の命は止まったが、彼の中に巣食う悪魔はまだこの中に残っている。
用意していた棺桶に彼を入れ、封印の呪符を塔の入口に貼った。これで悪魔が出てくることはないだろう。
私も血を失いすぎた。長くは持たない。
最後の気力を振り絞り日記帳に記録を書きとどめる。
悪魔の弱点は自分の名前を知られること、私には特定ができなかった。
もし、この日記を見つけてくれる人がいたのならどうか鎌実を救ってあげて欲しい。




