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その日は本家に呼ばれており、朝から外出していた。しかし呼び出しがあったにも関わらず、要件が伝えられないまま部屋で3日も待たされている。私を屋敷へ帰さないようにしているような、時間稼ぎをされているような。まさか忘れられてしまったのだろうか。久しぶりの穏やかな時間に思わず微睡みそうになる。
ぼんやりと中庭の草木を眺めながら屋敷を出る時のことを思い出していた。いつも玄関で声をかけてくるはずなのに鎌実は送りに出てこなかった。最近さらに素っ気なくなった、というよりどこか壁を感じるようになった。そういうお年頃なのだろうが言葉の端々に敵意を感じるのは些かもの寂しいものだったりもして。先日も薬のことを誤魔化すのに少し冷たくあしらってしまったこともあり、自業自得と言えばそうなのだが。
帰ったら鎌実に謝ろう。ついでにどら焼きでも買って帰ってあげようか。反抗期真っ盛りの仏頂面も甘いものがあれば少しぐらいは解けるに違いない。
「梢さん、お屋敷からお客様が来ております」
背後からの声にぼんやりとした頭をゆり戻される。…屋敷?本家からの要件ではなく?僅かに引っかかる思考に嫌な予感が過ぎった。
「…通してください」
「梢さん…!!」
返事をする前に見覚えのある女中が転がり込んでくる。髪も乱れボロボロだ、よほど急いできたようだ。
「…どうしたんですか?」
「っ、それが…!」
昔から私の悪い予感は大体当たるのだ。不幸が降りかかることに変わりはないのだがそれでも最悪の結果だけは何とか避けることができていた。命だけは何とか助かったりするのは前世で徳を積んでたからじゃないかって、鍬夫さんによく笑われてたっけ。
堀夫さんが鎌実を外へ連れ出しゆり子さんに会わせてしまった、と。
その結果何が起こりうるか。
急に足元にぽっかりと穴が空いたような不安感が思考を鈍らせる。考えたくない、見たくない。でも思考を放棄する訳にはいかない。一瞬だけ頭に過ぎった最悪の状況、それだけは避けないといけない。
私を本家に止めさせたのはきっと堀夫さんの策略だろう。私の監視をすり抜けてゆり子さんの次は鎌実を利用するつもりなのは容易に想像がついた。
屋敷の女中に私の身代わりになってもらい本家をこっそりと抜け出した。




