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ヨロスブ・繋  作者: 有氏ゆず
転(3)
31/38

6-4




事件から数日後、少し落ち着いたゆり子さんから話を聞くことが出来た。


堀夫さんからも聞き取りをしたいところだったがなるべく本家との関わりを断ちたかったがために断念せざるを得なかった。


鍬夫さんが亡くなった事実を受け入れられなかった彼女は、堀夫さんの誘いである宗教を勧められたらしい。悪魔と契約し産まれた命を捧げることで、死者の魂を呼び戻し、再び会うことが出来るかもしれない、と。しかし彼女は失敗してしまった。それが功を奏してか不完全な状態で鎌実に取り憑いたため、命は無事だったようだ。


しかしその代償として、彼女は鎌実を自分の子として見ることが出来なくなってしまっていた。


「…鍬夫さんとの大事な子供なのに、生贄にしてしまった。母親にもなれない私は魔女になってしまったの…お願い、あなたが鎌実を育てて。私にはもうあの子が鍬夫さんにしか見えないの」

「いけません、私に母親なんて…」

「お願い、図々しいことを言って申し訳ないのだけどあなたにしか頼めないの。鍬夫さんとの子、あなたに託します」




私は鎌実の母親になった。


ゆり子さんのこと、悪魔が取り憑いていることは彼にとって知らない方がいい真実だと判断した。成人する頃には誤魔化しがきかなくなるかもしれないが、そうなる前に私が鎌実とゆり子さんを救い出せばいい。そんな真実はなかったのだと、私一人がこの嘘を突き通そう。そう思えば頑張れる気がした。


無事に回復した鎌実であったが、悪魔に取り憑かれた代償は小さくなかった。


幼少期は特に感情のコントロールがきかなくなると部屋の中のものが飛び交い、使用人も鎌実も傷が絶えなかった。歳を重ねるごとにその現象は落ち着いていったが体の弱さだけは治ることはなかった。熱を出して寝込むことが多く、医師に処方された薬は効かないため夜はいつも付きっきりだった。鍬夫さんの残した研究施設を使い私は鎌実の血液と薬の研究をすることにした。ゆり子さんからも協力してもらい、彼女の血液が有効だとたまたま気がついたのは幸運だった。


寝込むことが多かった鎌実がまともに普通の子のように遊べるようになったのは5歳になってからだった。にこにこと私を"かあさん"と呼びながら手を振ってくれる鎌実が愛おしくて、もうこれで元気になったのだと油断していた。




「ぎゃああああああっ!!」


夏の朝のことだった。外から聞こえる悲鳴で飛び起きた。隣で寝ているはずの鎌実がいない。気がついたら裸足で外で飛び出していた。


「鎌実ッ!」

「いたい、いたい…っかあさん助けて、いたいよ、かあさん!」


木の下で鎌実が蹲っていた。彼の姿に愕然とした。火傷なんてものじゃない、肌は黒く焦げただれている。辺りに火はなく、誕生日にあげた昆虫図鑑が散乱しているだけであり、朝日が上り始めていた。

鎌実は日光に当たることが出来ないと、この時初めて判明した。


どうやら図鑑で見たカブトムシを取りに行きたかったようだ。早起きしてこっそりと初めて外に出た結果、鎌実は陽の光に焼かれた。


これではこの子は外に出ることが出来ない、学校に行くことも出来ない、この狭い小さな世界で生きていかなくてはならない。それでは救ったことにはならない。




私は研究にさらに没頭した。鎌実が外に出られるように、友達を作って、素敵な人と出会って、いずれはゆり子さんにも会えるように。


コンを詰めすぎて寝込むこともあった。その度に鎌実が心配そうに顔を覗かせる。15歳にもなると思春期なのか素っ気ない様子を見せるようにもなったがどうやら私にあまり負担をかけたくないらしい。自立したいと、世話役の爺に話しているのを聞いた。


鍬夫さんに似て優しい子で、ゆり子さんに似て賢い子なのだ。私が頑張らないと。


そんな私の想いに反するように、鎌実は倒れることが増えた。私も焦っていた、だから鎌実のことが本家の一部の人間に伝わっていることに気がつけなかった。




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