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ヨロスブ・繋  作者: 有氏ゆず
転(2)
26/38

5-3



2階



源氏を俵担ぎした鮫島と犬飼は再び廊下を疾走していた。


「ンだよあれ!ガチもんの化け物じゃねえかよ!!」


源氏を連れて行こうと立ち上がらせた途端、物音1つしなかった部屋の扉が開きソイツは現れた。黒い、自分の背丈よりも大きな肉塊が静かにこちらを見ていた。まるで獲物を見つけて喜んでいるようにギチギチと大きな口を開けて笑っているようだ。

まずい、と脳が警鐘を鳴らす前に身体が動いていた。


「うっ…吐く、もう少しゆっくり」

「んな悠長なことやってられっか!」

「大河!アレ、あれだよ俺が襲われたやつ…っ!」




振り返ると黒い物体から人間の足が5本ほど生えて───




「走ってる!?」

「無理無理無理!キモいまじでキモいーッ!!」


完全に鮫島たちをロックオンしたようだ。弾丸のように一直線にこちらに向かってくる。


「速いんだけど!無理、追いつかれちゃう…ッ」

「一旦どこかに入るぞ!」


角を曲がってすぐの部屋に飛び込み抑えるように扉を閉める。ダンッと扉に何かが叩きつけられる音が響くと静かになった。3人の荒い息遣いだけが聞こえる。




「…行きましたか?」


扉に耳を当て外の様子を伺う。足音は聞こえてこない、がミシミシと唸るような音だけが聞こえてくる。


「…どう思うよ、これ」

「多分、多分だけどさ、ココに張り付いてるよね」


犬飼は顔をしかめながら扉を指さす。僅かに振動する扉は軋みヒビが入り始めていた。


「閉じ込められたってことですか」


こうしている間も古い扉は軋み続ける。長くは持たないだろう。


「クソ、どうしたらいいんだよ」

「…しっ、何か聞こえます」


唇に指を当て静かに耳を澄ます。




「…ん、…おサン…」




女のような何かが混ざりあったような音声のようなものが扉の外から聞こえてきた。


「なにか喋ってる?アイツ喋れんの、もうまじキモいんだけど!」


3人がかりで必死に扉を抑え込む。


「…ッ、だめです。これじゃもたない…っ」

「何か手はないの!?」

「ンなの俺が知りた……あ」


何かを思いついたように鮫島は部屋の中を漁り始めた。


「どうしたの大河」

「いや、腕掴めるんなら物理通るんじゃねえかなって思ってよ」


木材片手に鮫島はバッターボックスに入った打者のように構える。


「どーせ何もしねえとアイツにやられちまうんだ。ならイッパツ絞めてやろうぜ」


言葉の節々にどこかもうヤケクソじゃないか、と感じられなくもないが。鬼気迫る鮫島の表情に2人とも息を飲む。


「一気に開けろ、そしたら勢いでこっちに向かってくるはずだから…!」


源氏と犬飼は目配せすると頷き、


「やっちゃえ、大河!」


扉を勢いよく開けた。

目論見通り、急に扉が開いたからか転がり込むように黒い何かが鮫島に向かって突進する。


「ぶっ飛んじまえ!オラアアアァァッ!!」


鮫島は大きく振りかぶり、黒いソレに向かって振り抜いた。木材がブヨブヨとした胴体にくい込み、部屋の外の廊下まで吹き飛んだ。


「……なんですか、前世ゴリラか何かなんですかね」

「さすが!ナイス大河!!」

「っしゃあ!逃げるぞ!!」


廊下の奥で黒い影が蹲っているのを視界の端で確認すると、それから距離をとるように部屋を抜け出す。




「これならしばらく動けな……っはぁ?」


廊下を進んだ先にソレは立っていた。


「さっき大河が吹き飛ばしたはずだろ…!?」


足の本数は2本まで減り、腕らしいものが生え、先程よりも人らしい形をした影のようなそれは静かにこちらを見つめていた。真っ赤な眼球が闇の中で光る。

逃げなくてはいけないのに金縛りにあったかのようにもう足は動かなくなっていた。


それは静かに歩を進め、源氏の前で止まった。




「源ちゃん!!」


顔をのぞき込むように近づき、ギチギチと黒を割いたように口元をゆがませた。胸元へ手を伸ばし────数刻前、目の前で噛み砕かれた会長の姿がフラッシュバックする。次相対したら殺してやろう、仇を取ってやろうと思っていた。それなのにいざ目の前にしたらこのザマだ。腰が抜けて言葉を発することすらできない。ぎゅっと目をつぶり守るように自分の体を抱きしめる。




ごめんなさい、晴臣さんが助けてくれたのに、俺、食われ────




「ご…メンな、さイ……」

「え?」


先程よりも絞り出すような、細い声だった。それでも聞き取れる女性の声、思わず見上げてしまった。


「クわオ、さん…ごめんナさ、い……くわオさん」


顔は分からない。誰に謝っているのかも分からない。それでもそれはどこか悲しそうで泣いているようにも見えて、




「─────、──…」

「…?」




聞き慣れない単語に首を傾げる。目の前の漆黒を覗き込もうとしたその時、ビクッと雷に打たれたかのように黒い影は痙攣し、さあっと風に吹かれるように消えてしまった。


「源ちゃん!大丈夫!?」


犬飼が駆け寄り、呆ける源氏の肩を掴み揺らす。


「なんだったんだ……?アイツ消えたのか?」

「…多分、なんだか悲しそうでしたけど」


黒い女性が消えた廊下の先を見つめる。アレの言葉と感情の真意は掴むことは出来なかったが彼女の消えた先に探し求めていた下りの階段を見つけた。




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