4-5
大広間
机、棚、椅子、あらゆるものが飛び交い神々廻を襲う。軽くいなしながら男との距離を詰め襟元に掴みかかり、鮮やかな技をかけて床に倒す。確かあれは大外刈──ではなく、目の前で繰り広げられる人の技を離れた攻防に呆気にとられている場合ではない。部屋の隅に吹き飛ばされた有翔に駆け寄る。
「有翔!大丈夫か、立てるか……!?」
「けほ…っうん、なんとか」
差し伸べた手を掴みふらつきながら有翔は立ち上がる。
「古も間一髪、だったね」
反対の肩を支えるようにレナが有翔の脇から顔を出した。
「晴臣は乗っ取られてる、おそらく1か月前から」
「そんなに前から?学校で会ってた時は普通だったぞ」
「監視カメラに全部映ってたの。夜ひとりでどこかに出歩いてる晴臣の姿、まるでどこかに呼ばれるようだった。無意識で何度かここにも訪れているはず。玄関の鍵を破壊したのも晴臣だと思う……晴臣本人も自分の異変に気がついていたんじゃないかな」
「……だからあんなに眠たそうだったんだね」
どこか悔しそうに有翔は唇を噛む。
「ここからは明臣の推測だけど。あの依頼のを書いたのは乗っ取られた晴臣自身、彼を誘い込むための罠だった」
「……何?罠?」
その瞬間、背後の壁に向かって神々廻が吹っ飛び叩きつけられた。気がつけば目の前に男が立っていた。
「黎一郎!!」
「素晴らしい、ご明察!」
パチパチと乾いた拍手が響き渡る。近づいてくる男から有翔を庇うようにして睨みつけた。今度ばかりはやられるわけにはいかない。
「ひと月ほど前、封印が解かれた自由になった俺はコイツの肉体を奪うため画策していたのさ。生憎夜しか動けないのが不便でね」
1ヶ月前、動画配信者がやってきた時のことだろう。彼らは確かに侵入しようと縄を切ってしまっていた。あれがコイツを封印するためのものだったのであろう。
「つまり、夜会長の体を使って手紙を書いて依頼を自作自演していたってことか」
ニヤリと怪しく口元が歪む。
「いくつか計算は狂ったが。もうコイツの意識はない、ここに来た時点で完全に俺のものになった。ご丁寧に餌まで連れてきてくれて感謝はしてるんだぜ?」
耳障りな言葉に苛立ちが積もっていく。もう恐怖は通り越していた。どうせやられるのならやってしまえ、と飛びかかろうとした瞬間、ガラガラと瓦礫が崩れる音で振り返る。
「……ってェな」
肩と首をパキパキと鳴らしながら神々廻が背後に立っていた。砂埃とかすり傷でボロボロだ。
「大丈夫なのか、お前」
「あァ心配すんな、すぐ仕留めてやらァ!」
「いや、仕留めないで欲し……おい!」
古の言葉を聞く前に神々廻は男へ飛びかかっていた。疾い、目で追えなかった。
「っ、しつこい、お前……!!」
「嫌だったら大人しくして、なァ!!」
不意を突かれたのか焦る男の片腕を掴み、流れるような動きで一気に捻りながら押し倒す。
「ハ、油断したなァ」
どっちが悪役なのか分からないような笑みを浮かべ掴む手にいっそう力を込める。
「…っ、く、離せ……っ!」
男の顔が苦痛で歪む、抵抗しようとするも馬乗りされてしまい動きが完全に封じられた。
「おら、寝不足はさっさと寝てなァ」
トン、と首元に手刀を落とすと男は一切の抵抗をやめ、項垂れるように意識を手放した。




