4-3
居残り組
ガラガラと大きな音をたて荷台を引きながら山道を神々廻は疾走する。
「うっ酔いそ…」
「吐くなら後ろに吐いてよ、将吾」
日は沈み始め山の中は暗くなり始めていた。さすがの神々廻も続く山道と視界の悪さで少しペースダウンしていた。
「…黎一郎、大丈夫?」
「あァ?心配すんなって…おい、なんか見えてきたぞ」
「あれです!」
明臣が荷台から身を乗り出し指を指す先に薄暗い木々の間に大きな洋館が現れた。カラスの鳴き声がさらに不気味さを増長させている。
「誰もいないね、まだみんな中にいるのかな」
錆びて朽ちた門を押すと何人かが通ったであろう足跡の轍ができていた。入口の鍵は壊されているが何かが引っかかり扉は開かなくなっている。
「何これ…っおっも!ダメだ開かない、神々廻先輩も手伝ってよ…………なにしてんの神々廻先輩」
「おう、ゴショーこれ持ってろ」
荷台の取っ手を直樹に預けると神々廻は庭の木に登り始めた。
「えっちょ、何してんのアンタ!」
「あァ?俺はあそこから入る」
屋根の近くについたステンドグラスを指さす。木から飛び移ってガラスを割る算段なのだろう。いや木からも15mほど距離がある、木から人が飛べる距離では決してないのだが。
「黎一郎、私も連れてって」
「ダメだ、お前はヒショたちと一緒にいろ」
「いや、傍にいてくれるんでしょ?」
膨れ顔でレナはくい、と神々廻の羽織の袖を引っ張る。ため息をひとつこぼすとどこか嬉しそうに神々廻は笑った。
「あァくそ、しょうがねェ。振り落とされンじゃねェぞ」
嬉しそうに彼の背中に飛び乗り羽織の中へ潜り込んだ。下駄を木に引っ掛けると彼女を担いだまま上まで登りきり、
「うわぁ、ほんとにあの人飛んだよ」
───その勢いでガラスをぶち抜いた。
「あーあ、あのステンドグラス歴史的価値あるんですよ?容赦ないなぁ…」
「…それはいいんだけどさ、早く降りてよ。重たいんだよこれ…っ」
「えーこのまま私を運んでくださいよー」
「アンタも僕に無茶言わないでくれない!?」
しょうがないですね、と明臣は荷台から渋々降りた。
「僕たちこれからどうするの?」
「ふふ、こんなこともあろうかと家からこの屋敷の見取り図持ってきたのです。褒めてくれちゃってもいいんですよ?」
じゃじゃーん、と口で効果音をつけながら見取り図を広げ、トンと指を置く。
「……裏口がここにあります。鍵がかかっているかもですが私たちはここから入りましょう。中で皆さんと合流する前に確かめたいこともありますからね」
──ガラスを破りながら落下する。割れたガラスの破片が頬を裂いた。背中に抱える彼女を落とさぬよう構えると視界がすぐに古を捉えた、首を絞める男の姿も一緒に。見知った姿であるが様子がおかしいのは一目瞭然、考えるよりも先に足が出た。男は壁の方まで吹き飛んだがこんなことで死ぬような輩ではないだろう。
「…よォ、何してんだァ?尻もちなんかついて」
振り落とされた弟の近くに着地する。困惑するように目を白黒とさせていた。
「けほ…っなんで、いやどうして天井から…」
「何があったの、古」
ひょこっと神々廻の肩からレナが顔を出す。
「悪い、説明している暇はなさそうだ」
壁際でゆらりと吹き飛ばされた男が立ち上がるのが見えた。間違いなくこちらに向かっている。
「……あれって晴臣?」
見知った男の目は怪しく光り、殺意に満ちていた。
「なァ、コサキよ。俺はどうしたらいい?」
レナを下におろすと古に問いかける。困惑した表情から目に力が宿る。これは自分に対する信頼の証か否か。
「会長は乗っ取られている。ひとまずアイツの動きをとめてくれ。ただし殺すな、頼む」
「ハッ、承知ィ!」
ニヤリと笑ってみせると神々廻は床を蹴り男に飛びかかる。男は応戦するように机を持ち上げ投げつけた。




