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『祖父から借りた懐中時計を無くしてしまいました。無くしたことがバレたら祖父に怒られてしまいます。あそこへは私はもう行けません。どうか探し出してくれませんか』
11月某日、ある一通の依頼が届いた。
「何コレ、どこなのここ。コレ会長の引き出しの中に入ってたってこと?」
直樹が不審そうに読み上げながら手紙を部長の古に手渡す。それをを囲うようにして有翔と犬飼が覗き込んだ。
「ここ、ちょっと前に心霊スポットだかで話題になったところだ。まだ見てないけど動画も上がってると思う。でも確かここ私有地だがなんだかで入れないはずだから炎上してたんだよな」
依頼状に書かれた住所は市内の外れにある大きな洋館、ひと月ほど前、動画配信者により心霊スポットとして話題になったことで一部界隈では有名であった。オカルトジャンキーが反応しないわけがなく、珍しく部長は饒舌である。
「あぁ、それは大丈夫。許可は下ろせるよ……うん、そうだね。今回は私も行こうかな」
「あれ?でもハルくん怖いのダメじゃなかったっけ?」
そうだったかなぁ、と会長がはぐらかすのを常日頃彼に振り回されている部員は見逃さなかった。───もしかしたら会長がビビるところが見られるのでは?
「いいじゃん、肝試しってことでしょ。楽しそうじゃん!なぁ、大河?」
「うるせえよ、暇だしついて行ってやらねえこともないけど。なあ?山田?」
「…わ、我、神に啓示されし宿命を月が満ちるまでに果たさねば…(訳:僕は今月末までに学校の課題を終わらせなければいけないので行けません)」
「お前今日それ提出してたじゃねえか、終わってんだから行けるよな行くよな山田、なあ山田も行くって」
「そんな」
淡い期待に色めき立つ部員たちの様子を尻目に会長がぽそりと古に耳打つ。
「実はね、ここはうちの所有物で…まあ分家の末端の末端が昔に使ってたものなんだけど。流石に無許可で私有地撮影されて心霊スポット扱いされるのも心外だしね。得意じゃないけど一度見ておきたかったんだ」
つまり奉日本家の敷地内で動画撮影しアップロードした強者が会長直々に依頼を出したということか。どれほど命知らずなのだろうか。
「あ、でも直樹くんには生徒会の仕事頼みたいなあ。今月までの決済が溜まっててね」
「えぇ何それ…げえ、ほんとだ何でこんなに積まれてるのさ!今回に限って…」
「頼むよ、直樹くんこの手の書類は得意だろう?君には期待してるのさ」
デスクに積まれた書類に顔を顰めながらも期待している、の一言で少し満更でもなさそうな表情を見せる。しょうがないなあ、と丸め込まれてしまうところが案外可愛いのかもしれない。微笑ましそうにそれを眺めながら古は足元に転がる兄、神々廻にも目を向ける。
「シンも来るか?」
「……俺は行かねェ、馨も誘うな。お前たちも行くなら早めに帰ってこい。」
───ヤな感じがする、と臭いものを嗅いだように顔を顰めている。彼の勘は良く当たる。それに助けられたことも事実、薄汚れてはいるものの頼りになる男なのだ。一緒に行動できないことは残念ではあるがひとまず忠告を胸に留めておいて損はないだろう。
「じゃあ参加者は神凪くんと有翔、源氏くん、犬飼くんに鮫島くんと山田くんだね。今週末はお化け屋敷探索といこうか。みんな懐中電灯は忘れずにね」