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犬飼・鮫島
「確かこっちの部屋だったと思う!」
懐中電灯で廊下を照らしながら走り抜ける。源氏と別れてからどれぐらい時間が経っただろうか。大人びているとはいえ後輩であることには変わりがない。1人置いてきてしまった罪悪感で潰されそうになる。
「くそっ、広すぎんだろ!なんだここ学校並みだぞ!?」
「おかしい、階段からそんなに遠くなかったはずだよ!」
「でもさっきから同じような部屋の前ばっかぐるぐる回ってんだろ!」
鮫島の言う通り、もう2階を1周してもいいぐらいの距離を走っているはず。それなのに廊下の果てが見えない。解散地点の階段にも戻ることが出来ない。
「もうどーなってんのここ!!」
「なぁ!はぐれた部屋に特徴とかねえのかよ!」
「…あっ!」
思い出したように床を懐中電灯で照らす。
「そうだ、足跡!裸足のやつ探して!」
埃が舞う床に目を凝らす。スニーカーのものに紛れて一方向に伸びた足跡を見つけた。
「あった!あの先に…っ「なにがあるんだい?」
「!?」
聞きなれた声が背中にかかる。ぞくりと背中に冷たいものが走った。
振り返るが顔は見えない。手をヒラヒラと振りながら声の主は近づいてくる。
「源氏くんがどうのって聞こえたけど…あ、鮫島くんさっき私に靴投げたろう?痛かったんだからね、もう」
数歩で近づく距離まで迫ってきていた。
「ど、どうしよ、あれも偽物?もうわかんねえよ大河……大河?」
ぷつんと隣の彼から何かが切れた音がした。
「…ぁあくそめんどくせえ!!何なんだよお前は!?」
鮫島は殴りかかっていた。
「ちょ、ちょ!?待って大河会長殴ったら…っ」
拳が触れる前に会長と思わしき体はボロボロと崩れ出していた。
「…なんだこれ」
呆気にとられている鮫島の奥で何かが動いている。よく目を凝らすと廊下奥の部屋の前に人影がうっすらと見える。懐中電灯で照らすと見覚えのある黒い長髪が座り込んでいた。
「源ちゃんっ…!あぁ良かった無事だったんだな、置いてっちゃってごめ──」
座り込む後輩に駆け寄り手を差し伸べようと顔を覗き込んで絶句する。
「……はる、おみさん…はるおみさんが、あぁ…」
虚ろな瞳で扉を見つめる彼の顔は血で汚れており、血溜まりに座り込む彼の髪は赤黒く染め上がっていた。白く血の気の失った顔は怯えきっていた。
「源ちゃん!?しっかりして、怪我は!?」
肩を掴まれ揺さぶられて我に返ったのか源氏はカタカタと身体を震わせ扉を指す。
「…ぁ、晴臣さんが、晴臣さんが頭から化け物に食われて、俺何もできなくて…っ」
化け物の単語を聞き、はぐれる直前に右手に絡みつく気味の悪い感触を思い出し、ぞくりと肌が粟立った。
「…源氏、ちょっと意味わかんねえかもしれねえけどそれは会長じゃねえ、と思う、多分。とにかく、古たちと合流するぞ。詳しくは後で話すから」
歯切れの悪く言い聞かせると鮫島は顔色の悪い源氏を立ち上がらせ1階へ向かった。




