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目を覚ますと心配そうに覗き込む母の姿があった。またか、と気が遠くなる。
「鎌実…!あぁ良かった、目が覚めたのね。気分はどう?」
…最悪だ。
グラグラ揺れる視界と頭を割る耳鳴りも、不意に襲う吐き気と頭痛も、毎度倒れる度に付き添う母も。全部重たい。窓の外は陽はとうに暮れ月が昇り始めていた。
昔から俺は体が弱かった、らしい。父親も病死している。結核だった、と母から聞いた。だからこんな僻地の屋敷に住んでいるのだと。
そんなことぐらいしか父親のことなんて知らない。自分が生まれる前に死んだ、会ったこともない人間の話なんか正直どうでもいい。
しかしそんな父親に自分も似たのだろうか。幼少期から日光が苦手だった。日焼けなんてもんじゃない、火傷のように皮膚がただれてしまうのだ。おかげで昼間外出も出来ず、外界と関わることも無く今まで生きてきた。幸い母親が学者だったこともあり勉学に勤しむだけの環境だけは整っており、入れ替わりで来る使用人が都度書籍を仕入れてくれていた。
それとは別にもう1つ、先程のように気を失い倒れることが度々あった。
医者にも原因は分からないらしく、口を揃えて皆心臓も肺も頭も正常だろう、と。心配した母が研究し、調合した薬を毎晩飲ませてくれていた。そのおかげなのか倒れる頻度はだいぶ減ってはきたのだがいつまでも母親に頼る訳にはいかない。
かといってその薬の調合場である地下の研究室に母は何故か頑なに入れてくれなかった。無理やりにでも、と思ったが地下への入口を俺は未だ見つけられていない。母親の後をつけ、何とか父親の書斎まで目星はつけているが施錠されてしまうのだ。で、あれば薬の材料の出処を突き詰めた方が早いのではないか。
使用人が仕入れてくるものは一通り調べた。食材、書籍、生活雑貨、衣類に至るまで、何なら過去の帳簿も確認済みだ。その中には別の研究で使用する薬剤がいくつか含まれていたが、俺の内服薬に該当するようなものは見つけられなかった。外部から仕入れずに入手できるものとなると自家栽培しかあるまい。
そう思い庭先に出た途端これだ。使用人どころか真っ先に母親に見つかってしまった。夕方に出直そうと思ったがこうして倒れてしまってはどうすることもできない。暗闇で広い庭を探すのも限度がある。
家から出て外界が知りたいとか、そうじゃない。俺は自立したかった、いつまでも子供じゃないんだ、と。




