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ヨロスブ・繋  作者: 有氏ゆず
承(1)
11/38

2-5



チーム3:



狭い石段を古、山田、会長の順で下る。


「あ、あぁっ上にいるのは蝙蝠ではなかろうか!大丈夫なのかここはっ」

「山田、余所見はいいが転ぶなよ」


暗さで定かではないが本館の方角へ進んでいるはず、きっと別棟へ繋がる抜け道だったのであろうと推測できる。


下り終わると少し開けた場所に出た。何やら実験でもしていたのだろうか、石壁に薬と本が並んだ棚が敷き詰められ古めかしい機械が置かれている。机の上の古いノートをパラパラと捲る。懐中電灯を照らしながら単語を拾う。




「……死した魂を呼び起こすための?召喚における禁忌……なんだこれ」


置かれていた化学的な器具にそぐわないなんともオカルトな研究でもしていたのであろうか。中々興味がそそられる内容ではあるが元家主は果たしてこの地下で何をしていたのか謎は深まるばかりである。


「ココココサキコサキ」


山田がガクガクと、もはや振動する勢いで震えながら部屋の奥を指さしている。ノートから部屋の奥へ懐中電灯を移す。


「……あれは」

「死体だね」


照らされたものが何かを確認する前に会長が答える。よく見ると奥の方は鉄の柵が張り巡らされ、いくつもの牢のようになっていた。その牢のひとつに干からびた、人のカタチをしたそれがこちらを見るように蹲っていた。




「君たちはあんまり見ない方がいいよ、慣れていないだろう?」


有無を言わさぬ圧を放ち、会長はカツカツと1人奥へ進み牢の前に座り込み観察している。全く躊躇しないところを見るとやはり彼は慣れているのだろうか。


「だいぶ時間が経ってるね、何十年もここにいたみたいだ。ううん、女性かな?」


牢に入れられるということは何か悪いことでもしたのだろうか、いずれにしてもこんなものが見つかってしまった以上早く外へ出て通報せねばなるまい。くいと袖を引っ張られる。


「コサキコサキ我限界」


腕に縋り付く山田の顔がいつにも増して真っ白だ、先程から床に見える赤い染みや奥の牢に塔にあったお札と同じものが見えることなど気になることはまだ残っているが死にそうな顔をされてしまっては致し方あるまい、ノートだけ回収し先に進むことにした。


部屋の奥に上り階段が見える。きっとあれが出口であろう。




「あれ、行き止まりか」


目の前を壁をさぐってみるが冷たい石壁があるだけで進むことができない。


「構造的に隠し扉があってもいいよね」

「……ふむ、塔の床板が外れるなら今回もこっちでは?」


山田が天井を押すとガコンっと外れる音とともに薄暗い光と埃が降り注ぐ。


「山田天才」


3人で天井を外し上る。どうやら出口は暖炉だったようだ。おかげで全身灰と煤で汚れてしまった。


「やっぱり本館と繋がっていたみたいだね」

「早くみんなと合流しよう、嫌な予感がする」


好奇心で薄れていたが、異様な塔、地下の死体を目の当たりにし出立前に兄に警告されていたことを思い出す。探索を始めてから三時間は経過している。日が暮れる前に帰った方が良さそうだ。


ここは書斎だろうか。所狭しと本棚がぎっしり詰め込まれている。出口になっていた暖炉の上には写真が一枚飾られている。小さな男の子を抱いて立っている女性の写真。ここの住民だろうか。


部屋を出ると相変わらず暗く長い廊下が続いている。ところどころ扉が開いているのは1階の探索をしたメンバー、きっと有翔の仕業だろう。




「……靴?」


廊下の真ん中に不自然にも一足だけ転がっていたソレを拾い上げる。黒色の男物のスニーカー、サイズは大きめだ。


「タイガのではないだろうか。確か今日そのような色のものを履いていた気がする」


鮫島のものであったとして、どうしてこんなところに落ちているのか誰もわからない。この汚れた廊下を裸足で歩くのは誰しも躊躇するはずだ。脱げた靴を置いていくほど切羽詰まった状況だったということだろうか。


「上の階から声がするね。誰か近くにいるみたいだ」


会長に言われた通り耳を澄ますと確かに喋り声が聞こえる。数時間ぶりの人の気配に古と山田は少し安堵した。


「とりあえず合流しよう、話はそれからだ」


少し進んだ先にあった階段を駆け足で上る山田を古と会長が追いかける。2階に上がると先ほどの声がはっきりと聞こえてくる。何やら言い争っているようだ。角を曲がり山田と古が覗き込むとそこにいたのは鮫島と、犬飼と、そして──…………




「……え?」


先ほどまで一緒に行動していたはずの会長の姿があった。


「ダーヤマちゃん!?大丈夫?無事だった!?」


犬飼が駆け寄ってくる。隣にいる鮫島の顔がやや青い。しかしそれどころではないぐらいに古と山田は混乱していた。


今自分の後ろには会長がいる。しかし目の前に立っているのも紛れもない生徒会長その人だ。一瞬、目の前にいるのは双子の彼ではないかとも頭を過った。そう思い込んだ古を察してか、山田はぶんぶんと首を横に振っている。




じゃああれは一体誰なんだ。




「どうしたんだい?鮫島くんと犬飼くんがいるんだろう?隠れてないで出ていけばいいじゃないか」


背後に隠れて不思議そうな顔をした会長が背中を突く。どちらかが偽物?いやそもそも偽者ってなんだ、もうわけがわからない。何かとてもまずい気がした。ゾワゾワと嫌な寒気が全身を走り抜ける。混乱した頭が警報を鳴らす。でもそれも既に遅かった。鮫島と一緒にいた会長がこちらへ向かってきており、




「やぁ、随分と2人とも汚れてるね。どこに行ってきて……ぁ」




背後にいた会長と鉢合わせてしまった。


同じ顔が並んでいる。双子の兄弟がいるからこんな光景見慣れているはず、なのに言い表せない気持ち悪さが背中を這い回る。


それに気がついた鮫島と犬飼も凍りついたように固まっている。誰も言葉を発することはできなかった。

古はゆっくり行動を共にしていた会長を振り返る。俯き髪で顔が隠れ表情は見えない。時間が止まったような気がした、瞬間、




「───ぁ、あ」


小さな唸り声と共に、グシャリと会長の頭が二つ、床に崩れ落ちた。




「……は、ぁ?」


血溜まりが床に広がる。主人を失った体はそのまま血溜まりの中へ折り重なるように倒れ込んだ。あたり一面に飛沫が飛ぶ。会長だったモノはボロボロと体を崩壊させながら肉塊へと化していく。もうそれは誰だったのか分からないくらいに。


「………何、これ」


腰を抜かした犬飼が力無くつぶやく。山田は廊下の奥でえずいていた。

目の前の光景はあまりにも現実味がない。脳が、思考が追いつかない。こんな時納得のいく説明で丸め込んでくれるであろう会長はもういない。


「あの人って何人いんだよ、もうわけわかんねえよ……!」


鮫島が頭を抱えてしゃがみ込む。そういえば鮫島のグループにはもう1人いたはずだ。


「おい、有翔はどうしたんだ」

「会長と一緒に逃げてるはずなんだよ……!だから俺は2階に……なのになんでここに、なんでお前たちと一緒にいんだよ!なんなんだよここは!!」

「落ち着け、鮫島」


混乱するのは無理もない。鮫島の言い様ではもう1人会長がいることだろうか、つまり今ここに生徒会長高本晴臣は3人存在したことになる。鮫島のグループに同行していた会長は学校から一緒に洋館にきた会長であろう。つまり今有翔と行動している会長が本物ということになる、のだろうか。何から逃げているのかわからないが。


会長だった肉塊を見る。この世で同じ顔の人間は3人はいるという。ドッペルゲンガーともいうが自分の生き写しを見たら死ぬ、なんていう都市伝説もある。今ここで起きた現象はつまりそういうことなのだろうか。




「…とりあえずみんな一旦集合しよう。犬飼、クソガキはどこに行ったんだ。一緒だったろう?」

「あ、それが───……」




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