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妹の笑顔


憂鬱な事に土日に詩音の所に泊まることになってしまった。ノートを取り返すためならば仕方ないとは言え、非常に心が晴れない……。だが、とりあえずは花恋にこの事を伝える必要がある。彼女の所に泊まるなどと伝えるのは大分恥ずかしいので、友達の所に泊まるとでも伝えよう。それならばスムーズに話が進む筈だ。もうすぐ夕食になるだろうしその時に言うとするか。


「兄さん! 夕食出来たから降りて来て!」


「分かった! 今行く!」


夕食が出来たため、下の階から花恋の明るい声が聞こえてきた。それに対して返事をした後、僕は下の階にあるリビングに向かい、夕食の席に着いた。


「今日もありがとう。相変わらず花恋は料理が上手いな。とてもおいしいよ」


「どういたしまして。でも花恋は兄さんがこうしておいしそうに食べてくれるのが一番嬉しいから、お礼なんて一々言わなくても良いんだよ」


「そういう訳にはいかないだろ。こうして自分の時間を使って料理を作ってもらっている以上、お礼を言うのは当然だ」


「フフッ! 兄さんは相変わらず優しいね! ありがとう。そんな兄さんの気持ちに答えられる様に花恋はもっと頑張るね!」


そう言う花恋の表情は心の底から嬉しそうで、僕の方まで嬉しくなってくるが、とにかく本題に入らなければいけないよな。


「なぁ花恋」


「ん? なに?」


「次の土日に友達の家に泊まりに行ってくるから、土曜日の夕食と日曜日の朝食と昼食は僕の分は作らなくても大丈夫だから」


「……そぅ。分かった」


僕が本題の事を伝えた瞬間、花恋は元気を落としてしまったかのか、声のトーンが低くなってしまった……。だが、そう思った途端に花恋の顔を見ると何故か、その表情は明るく、微笑んでいた。


「良かった! 兄さんにもちゃんとお友達がいたんだね! 兄さん、休日も家にいて勉強か、読書か、たまにテレビでニュース番組を見ること以外しないから心配してたんだよ! もしかしてぼっちなんじゃないかって……。でもお泊まりに行く様な仲の良いお友達がいて安心したよぉ」


「あ、あぁ……。それは、すまなかった。心配をかけた」


まさか実の妹にぼっち疑惑をかけられていたとは思わなかった……。それに加えて僕には確かに友達はいるが、わざわざ泊まりに行くような仲の良い友達は一人もいないため、大分悲しくなってくる……。まぁ必要以上の交友を避けている僕が全て悪いのだが……。


「ねぇ兄さん」


「なんだ?」


「お友達……。なんだよね?」


「……! ああ勿論、実の妹にぼっち疑惑をかけられるような兄に彼女なんている訳ないだろ?」


「アハハ! 花恋は兄さんの事が心配だったんだよ。だから、それは許してよ。それと、お友達なら良いんだ! 変なこと聞いちゃってごめんね!」


花恋に相手が友達かどうかを尋ねられた時、また異常さの様なものを感じた……。前に一度だけ、花恋からそれが向けられた記憶が僕の脳裏に思い浮かぶ。その異常さを言葉で表すとすると、まるで植物のツタのようで、それは精神に直接まとわりついて締め付けてくる……。締め付けられると一瞬、言葉を失い、恐怖心の様なものに精神を支配される……。そして、何か返答をしなければいけないのに理性は質問に対しての最も自分への害の少ないであろう返答を僕にさせる、それが嘘だったとしても……。


「お泊まり、楽しんできてね! あまりお友達に迷惑をかけちゃダメだよ」


「あぁ、分かってるよ」


今の花恋は、いつもの明るいしっかりした妹にしか見えず、一瞬とは言え、異常さを放った本人にはとても見えなかった。だけど何故か今の花恋が見せる笑顔を僕は素直には受け取れなかった……。 

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