0.あれ……帰してもらえるはずだったのでは……!?
魔大陸――魔王城最奥、"王の寝室"。
尋常ならざる気を纏い対峙する者が……1人と、1体。
「……聖なる剣の一閃、見事なり」
――たったいま、雌雄は決した。
魔なる者の巨躯が、床にどさりと倒れ伏す。
その息の根が完全に止まったことを確認した勇なる者は剣を振り払い、ゆっくりと鞘に収めた。
「やっと……やっと倒したのね、魔王を……!」
「ああ、お前のおかげだ……!勇者……!」
魔王との戦いで致命傷を受け瀕死になっていた仲間たちも、戦いの終結を悟り、次々に勇者を褒め称える。
数百年もの間、人類は魔物の侵攻に辛酸を飲まされてきた。
我々を苦しませ続けていた元凶である魔王。
その魔王を遂に討ち取った者は、いまどれほど誇らしい気持ちで――。
「なんで……」
勇者は肩をしきりに震わせ、魔王城全域に響くような大きな声で叫んだ。
「なんで元の世界に帰れないんだ――!?」
◆
おかしいっ、おかしいおかしいおかしい!!
契約不履行だろこれ!?
責任者出てこいよ!!
「はぁ……マジか~……」
俺は床にどさりと倒れ込む魔王の死体を見下ろしながら、この世界に来たときのことを思い出していた。
不幸な事故で即死――と思った矢先、ふわふわとした謎の空間に連れてこられた俺。
そこにいたのは、女神と名乗る女性。
その彼女に、俺は異世界で人類を苦しめる魔王を討伐してほしいと頼まれた。
もし成功したら、元の現実世界に帰してあげよう……という条件を付け加えられた上で。
だから、俺は……仲間を集め、技を磨き、こうしてやっと魔王を倒したというのに……。
全然、全っっっっ然、元の世界に帰してくれる気配がない!!!
「いや……帰りてえ……。やっと家のベッドで寝られると思ってたのに……」
「ああ、すぐに帰ろう。故郷の村に。勇者の凱旋だ……!」
「私たちを信じて送り出してくれた王様と会いに、王都にも行かなくっちゃね。王都の人たちみんな……いえ、国の人たちすべてがあなたを褒め称えるわよ!」
「そういう意味じゃないんだけどな~」
「『この戦いが終わったら俺、いなくなるから』とか言ってたもんな。今更恥ずかしくなったか?」
「戦いで死ぬ覚悟があったんだろうけど……私たちみんな、命を拾ったんだからいいことじゃない」
「ん~~~まあ……とりあえず帰るか~……」
「ははっ。激戦で疲れちまったか?」
「無理もないわね。帰ってゆっくり休みましょう」
全く気乗りしないまま、俺たちは帰路についた。
どうやったら……元の世界に帰れるんだろうか……。




